Episode:57
「………」
案の定、研究者は黙ったままだ。
だがルーフェイアのほうが気を利かせて、男に対して問い直した。
「どこへ行くつもりだったの? 答えて」
「わ、私の部屋へ……」
「――部屋? 部屋に何があるの?」
ルーフェイアに問われて、とても言いづらそうに男が口を開いた。
「そ、その、子供が……」
この一言でタシュアはピンとくる。この研究者、恐らくは……。
「子供?」
「ルーフェイア、最初の部屋に行けば分かります」
言ってタシュアは歩き出す。
ルーフェイアは最初ちょっと首を傾げ不思議そうな顔をしていたが、すぐに後ろを付いてきた。
「グレイス様? そちらの調査は終わったのですか?」
「終わったというか……違うもの、あるみたいなの」
途中で一度別れた警備の連中に出会ったが、彼らもルーフェイアの的を射ない説明に思案顔だ。
「違うものと言うと、何か調べ忘れましたか?」
「たぶん……」
聞いているだけ無駄だと、タシュアはさっさと元の部屋へ向かう。
「あ、先輩!」
後輩の声が聞こえたが、タシュアは振り返らなかった。本当に知りたいのなら、勝手に付いてくるだろう。
「あ、えっと、みんな……ここの調査、お願い。片っぱしから開けて。ダメなら、非常コード使って」
ずいぶんと大雑把な命令を出して、ルーフェイア本人はついてくる。ここが敵のいない施設内だからいいが、戦地であんな命令を出したら死者が出だろう。
もっともシュマーの人間がいくら死んだところで、別に構わないのだが……。むしろその方がいいかも知れない、そんなことを思いながら長い廊下を戻る。
途中、例の合成獣の死体はまだそのままだった。施設内にほとんど人が居ないため、片付ける人間もいないのだろう。
(――いっそここが丸ごと、墓場でいい気もしますが)
極悪非道としか言いようのない研究をした連中を、全員ここまで連れてきて墓場にしてやったら、少しは気が晴れそうだ。
もちろんそれで実験台にされた子たちが戻るわけではないが、彼らもいくらかは気が済むだろう。