Episode:55
(周囲が脱出したのを、知らなかったのですかね……)
だがいろいろ考え合わせてみると、やはりこれでは噛み合わない。
あの研究者は、警備のための人員が配置されたことは知っていた。だから情報が伝わってないわけではない。だとすれば、ここから他の研究者が脱出しようとしていることも知っていたはずだ。
なのに何故、彼だけは残っていたのか。何か理由があるはずだ。
(まぁ、捕まれば分かりますか)
ここから脱出しようと思ったら必ず船が居るし、そこまでの距離は遠い。しかも追われるのは運動不足の研究者で、追うのは鍛え上げた連中だ。どう考えても逃げ切れないだろう。そのうち知らせがあるはずだ。
ルーフェイアのほうは命令だけはきちんと出したものの、すぐに手近な椅子に座り込んでしまった。まだショックが抜けきらないらしい。
「あなたがそうしていても、死者は戻りませんよ」
「はい……」
そうは言うものの、彼女はうつむいたままだ。
「そんなに後悔するのなら、もっとよく組織を把握しておくことですね。防げないのはトップの責任です」
タシュアの言葉に、うつむいたままルーフェイアが小さくうなずく。
今までもこれからも、「知らなかった」では済まされない。それが上に立つということだし、それだけの権力を持ちながら義務を果たさない人間は、誰であれタシュアは許す気はなかった。
まぁそうは言ってもこの件に関しては、ルーフェイアはさほどの責任はないのだが……。
と、部屋の扉がノックされた。
扉そのものは開いているのだから、おそらくはルーフェイアに来室を伝えたいだけだろう。そう思いながらも答える。
「何です?」
「グレイス様のご命令どおり、研究者を捕まえました」
言葉と共に、両方から羽交い絞めにされた例の研究者が前へ連れてこられる。
(よくまぁ、この短時間で)
同じことをルーフェイアも思ったようだ。
「どうして……こんなに早く?」
「不審な様子でうろついていましたので、念のために捕縛しまして。そこへグレイス様の命令が入ったものですから……」
早い話、命令を出した時点でもう捕まっていたようだ。
ルーフェイアが一歩前へ出た。
「知ってた……のよね? 奥の、部屋のこと」
彼女の問いに、研究者が視線をそらせる。