表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/175

Episode:53

「医者にでも行ったほうがいいのではありませんか?」

 だがルーフェイアは答えず、棚の中に手を差し入れた。

 かちりという、何かがはまるような音。


「ほう……」

 タシュアが声を上げたのは、壁が動き出したからだ。

 厚みのある壁が、下から上へ。そして天井へ吸い込まれていく。

 小柄なルーフェイアがまず先に覗き込み、くぐって中へと入って行って――。


「いやぁぁぁぁぁっ!」

 悲鳴。


「ルーフェイア?」

 泣き虫な彼女だが、意外にも滅多に悲鳴は上げない。それどころか、非常時なら泣くこともしない。


 おそらくは最前線で育ったためだろう。

 いちいち声を上げていては、それこそ敵に場所を悟られてしまう。あんなところで音をたてるというのは、敵に射撃の的を教えるようなものだ。


 なのに今、ルーフェイアが声を上げている。

 ただならぬものを感じて、タシュアは少女の後を追って壁をくぐった。


「いったいどうしたのです」

「先輩、あ、あれ……」

 ルーフェイアが泣きながらすがりついてきて、奥を指差す。そうとう動揺しているようだった。


「なにをそんなに――!!」

 さすがの様子になだめながら奥を見たタシュアも、さすがに言葉を失った。

 部屋に並べられた大きな水槽。そこまではまだ何とか分かる。

 だがその中には……。


「――なんてことを」

 水の中で揺らぐ金の髪。白磁の肌。おそらくはルーフェイアの複製だ。人数は20人近いだろうか? 胎児と思えるものから幼児までさまざまだ。


 ただそのどれもが、すでに命がなかった。

 溶け崩れたりはしていないから、死んだのは間違いなく最近だ。一番可能性が高いのは、ここが見つかって撤退する時か。


 どちらにせよ、許せる話ではない。こんなふうに子供をモノのように量産し、挙句に要らなくなったら殺すなど、気がふれているとしか思えなかった。

 よほどショックだったのだろう、ルーフェイアは幼児のようにしがみついたまま震えている。せめて椅子にと思ったが、タシュアから離れようとしなかった。


(まぁ、これは仕方ありませんか……)

 タシュアでさえ、ここまでは予想していなかった。

 自分の複製をずらりと並べられたうえ全て殺されているなど、タチの悪いホラーとしか言いようがない。平然としているほうが、神経を疑う。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ