Episode:52
「……ここも処分されていますか」
棚から書類や本が落ち乱雑に散らかった部屋は、慌てて何かを引っ張り出した様子が窺えた。
今までいくつも部屋を見たが、あったのはさっき読んだ書類束だけだ。
思うにこの書類束はアヴァン語だったために、慌てて処分する際に見落とされたのだろう。
(この調子では望み薄ですかね)
地図と照らし合わせた限りではここが魔力炉の一番近くで、施設のほぼ中心と言っていい場所だ。
そこを探してほとんど見つからないのだから、あとはもう人海戦術で、施設全体をしらみつぶしに探すしかないだろう。
例の研究者は、まだ一緒に居た。
(よほど頭が明後日のほうへ飛んでいるのですかね……)
同僚が逃げ出しているのだから、普通なら不安になってもおかしくない。なのにのこのこと一緒に回っているのだから、頭のネジが数本抜け落ちていそうだ。
ルーフェイアが一緒に居るから安心している……というのはありそうだが、それを考慮に入れたとしても、無防備すぎるだろう。
本を踏まないよう注意して歩きながら机まで行き、置きっぱなしの魔視鏡を立ち上げる。
(やはりダメですか)
記録石には、記録が消された痕跡があった。証拠隠しだろう。ただ、消し方が甘い。これならば自作の魔令譜を使えば復元できそうだ。
一旦魔視鏡を止め、記録石を外しにかかる。
ルーフェイアは横から見ていたが、止めはしなかった。だがじきに飽きたのかとことこと部屋の奥へ行き、何故か壁の前で立ち止まった。
しかも何を思ったか、そのままずっと壁を眺めている。
「ルーフェイア、そんなに壁が気に入りましたか」
「あ、いえ、壁じゃなくて……」
例によって少女の返答は的を射ない。
「それが壁でなければ何だというのです」
「いえ、じゃなくて……開く……?」
言いながら壁をなでたりさすったりしている。
「隠し扉だとでも?」
「分かりません……でも、開く気がするんです……」
タシュアが見る限り、部屋の奥はどう見てもただの壁だ。だがルーフェイアは開くと信じ込んでいるらしく、壁の前を行ったり来たりしている。
と、隅に置かれた棚の前で立ち止まった。
「ここを……開けるの?」
誰かに問いかけるような言葉。
「まったく、ついにあなたまでおかしくなりましたか? 誰と話しているのです」
「え? あれ?」
どうやら本人に自覚がなかったようだ。