Episode:51
ただだからと言って、ルーフェイアの立場に配慮するようなタシュアではない。
「外へ情報を出しておいて、返して欲しいとはずいぶん甘い考えですこと」
「え、でも、調査に……」
「――なるほど」
回収が目的かと思っていたが、少々勘違いしていたようだ。
「でしたら、あなたが先に読むべきですね。他人に渡すと言うことは、『返ってこない』ということでもあるのですよ」
「え、でも、先輩は約束守るんじゃ……」
ルーフェイアが不思議そうな顔をしながら言う。
「確かにそうですが、他人を勝手に判断してどうするのです」
「え、でも、シルファ先輩が……」
答えを訊いてなるほどと思う。シルファはルーフェイアとよく一緒に居るから、何かの折にそんな話になったのだろう。
(やれやれ、ずいぶん買いかぶられたものですね)
ルーフェイアのいうとおり、自分は必ず約束は守る。ただそれはあくまでも自分の場合で、他人に適応できるわけではないのだ。
そういう細かいことが、果たしてルーフェイアに分かっているのか。
(――まぁ、構いませんか)
仮に思い違いをしていたとしても、困るのはルーフェイアだ。
そんなことを思いながら、タシュアは書類束を指差しつつ訊いた。
「それで、これはどうするのです?」
自分が質問されるとは思っていなかったのだろう、しどろもどろになりながらルーフェイアが答える。
「あ、えっと、えぇと……お借りして……調査終わったら、先輩にお返ししてもいいですか……?」
「本来シュマーのものを、あなたが借りてどうするのです」
くれるというならそれで構わないが、渡してもいないうちからどうやって借りるのか。
「……すみません……」
「誰が謝れと言いました」
「すみま……あ……」
いつものやり取りになる。
だがタシュアは今日は、早々に打ち切った。調査が先だ。
「これ以上ここに用がないのなら行きますよ」
「あ、はい」
きびすを返したタシュアの後を、ルーフェイアと例の研究者――まだ居た――がついてくる。
だがその後は、これといって目新しいものはなかった。研究者たちが逃げ出しているのもあって、どの部屋も肝心の資料は処分されてしまったらしい。
もう何度目かのドアを、まずついてきた例の研究者が開くかどうか試し、結局またルーフェイアが強引に開ける。