Episode:05
――やっぱり、ダメかな。
ため息をつきながらあたしは顔を上げた。
机の上には何冊もの本が積み上げてある。今学期末のレポート用だ。でもどれも、資料としてはいまひとつだった。
課題は単なる歴史のまとめだ。ただローム文明――だいぶ前に滅びた南大陸の文明――まで遡ってまとめようとしたせいで、資料集めの段階で引っかかってしまっている。
学院の図書館は、けして蔵書数は少なくない。ただ使う生徒の数も多いし予算も限られているから、何でもというわけにはいかなかった。
これ以上となると、ケンディクの中央図書館まで行かないとダメだろう。
ただそうなると、何かと面倒だ。
いっそのこと、ファクトリー――シュマーの本拠地――から取り寄せようかなどと思ってしまう。
なにしろああいう家だ。資料庫や辺りを漁れば、うまくすると2千年以上前のものが出てくる。事実この間は、「ネゴリ記の解釈」の初版本が出てきた。
けどそれをやるわけにはいかないのが、辛いところだった。
というのも殆どが未公開の極秘扱いだし、なによりこれを使うと他生徒とのギャップが開きすぎて、反則としか言いようがなくなってしまう。
結局、「普通に」入手できる資料を片っ端から当たるしかなかった。
だけど図書館の資料は殆ど当たり尽くしてしまったし……。
と、人の気配がした。
明らかにあたしに用事があるような動きだったから、誰だろうと思って振り向く。
「あ、タシュア先輩」
ふだん気配をさせない人だけど、気を遣って分かるようにしてくれたんだろう。
ちょうど良かったと思いながら口を開く。タシュア先輩なら、この図書館のことは隅々まで知ってるはずだ。
「先輩、あの、お訊きしたいことがあるんですけど……」
「そうですか。私もあなたに訊きたいことがあります」
「――え?」
考えられない話だった。だいいち今までこんなふうに、「訊きたいことがある」なんて言われたことが無い。
「えぇと……聞きたいことって、なんですか?」
「ルーフェイアからどうぞ」
言われて思い出す。
タシュア先輩、意外にも順序とか礼儀を重んじる。今は偶然あたしが先に訊いたから、先に言えというんだろう。
「えっと、あの、大したことじゃないんですけど……ローム時代の資料って、これ以外にこの図書館にありますか?」
本の山を指差しながら訊く。
「ふむ……」
先輩が机の上を覗き込んで、タイトルを確認した。
「そうですね、これでほぼ全部です。もともとローム文明に関する資料自体が少ないですしね。――おや、『ネゴリ記の解釈』の原語版が入っていませんね。と言っても改訂版ですが」
「え、あるんですか?!」