Episode:48
いつかこの連中を、そんな仄暗い想いを抱く。こういう一線を踏み越えた連中は、何かあってもおかしくない程度には恨みを買っているはずだ。
資料にはカレアナ始め、この連中が生み出した存在に何をどうしてこうしたというような事が、延々と書かれていた。
もっともやり方自体は、オーソドックスなものだ。
今では合成獣のほうが有名になってしまったが、この手の生体錬金術と呼ばれるものは元々、人工的に生命を生み出すのが目的だ。そのため生き物の一部を使って元と同じ生き物を作ると言った実験は、古くから行われていた。
ただその実験が成功し始めたのは、そんなに昔のことではない。自然科学が発達し始め、受精卵が発見されてからだ。
だがそこから先は早かった。
何しろ本来関係ない生き物を、混ぜ合わせるような技術があるのだ。最初から赤ん坊になることが前提の受精卵を育てることは、けして難しくない。魔法陣の中に培養層を設置し、受精卵と同じ型の旋律を注ぐ。ただこれだけで十分だ。
まぁ実際には育ち始めはするものの、新生児のレベルにまで育つ確率は通常妊娠には全く及ばず、いいところ10回に1回らしいが……。
加えて魔力を栄養代わりに育つためか、精神的におかしくなる傾向が高い。その辺からしても、やる価値は薄かった。
――ここの連中には、そんなことどうでもいいのだろうが。
命を平然と冒涜して、何も感じないような連中だ。生み出した存在がどうなろうと、気にするようには思えなかった。
しかもこの人工発生、資料を見るとさらに続きがある。
2つの異なる生き物を混ぜ合わせ合成獣を作る技術はポピュラーだが、禁忌とされる混ぜ合わせ技術の応用をしているのだ。
培養層に入れた受精卵を魔法陣に置き、本来のものではなく他の生体情報と混ぜ合わせた『旋律』を注ぐ。確かに理屈の上では、これで本来無いはずの性質を持った子供が生まれるはずだ。
ただ本来あり得ない情報を強引に追加するためか、成功率はかなり低かった。それに上手く成功したとしても、これまた精神に異常を来す率が高い。
そんな理由で一般には禁断とされていたはずなのだが、シュマーの連中に倫理観を求める時点で間違っているだろう。
(もっともこういう馬鹿は、他にも山程いますか)
他にもそんな連中に心当たりのあるタシュアにしてみると、もうこういう研究をしようとする時点で、何か精神に問題を抱えているようにも思えてくる。
いずれにせよこの資料を見る限りでは、シュマー総領家でも実力者のサリーアは、そういった「強引に情報を書き換えられた」存在らしい。
が、そこまでしたにもかかわらず、結果的に実験が失敗に終わっているのが興味深かった。
実験の目的は当初は「総領家を途絶えさせない」ことだったようだが、カレアナと弟とが総領家を継いだ時点で元々の目的を失い、変質したようだ。