Episode:47
怒りを押し殺しながら読み続ける。
どうやらカレアナと同時期に生まれ同じ総領家として扱われたのは、あとは弟とされた1人だけのようだ。
他にもう1人、女性が破格の扱いを受けている。だがこの女性はシュマーを捨てたようで、出奔の記述を最後に記録が途切れていた。
さらに記録を下るうち、また知った名が目に飛び込んでくる。
サリーア。ルーフェイアの従姉で、シュマーの実務面の実力者だ。責任者はカレアナだが、取り仕切っているのは実質的にサリーアと言ってもいい。
だがその彼女にまで、この実験が絡んでいた。しかも、明らかに常軌を逸している。
(親が……)
記録には父親が存在せず、母親が2人。片方はカレアナ。もう片方は出奔したとされる女性だ。コメントには「より強い魔力を持たせグレイスを生み出す実験」とあり、また「意図そのものは達成したもののグレイスとはならず」とあった。
これが本当だとすれば、サリーアはルーフェイアの従姉ではなく姉だ。
ただこの件、ルーフェイア本人はおそらく知らないだろう。そうでなければあそこまで無邪気に、「従姉だけど姉さん」とは言わないはずだ。
いずれにせよ、相当根は深いようだ。どう見ても総領家全てが巻き込まれている。
問題は、それをどこまで当人達が知っているかだが……。
(――全ては知らないのでしょうね)
何ひとつ知らないと言うことはさすがにないだろうが、全貌は分かっていない可能性が高い。
こういった「通常ありえない」形で生命を生み出す技術は、以前からある合成獣を作る技術に端を発していた。
そもそも合成獣自体が、人為的に生命を作り出そうという実験の副産物だ。
長年の研究から生き物はそれぞれ生体情報と呼ばれる、固有の生命波とでも言うべきものを持っているのが分かっている。
それは例えて言えば音楽のようなものだ。そして種族単位でだいたい同じ旋律になるのだが、細部を細かく見ると一体ごとに違っている。
それを混ぜ合わせ、本来ならくっつくわけもない別の生き物同士を繋ぎ合わせるのが、合成獣の技術だった。
本来別々の生き物を魔法で時間を止めた状態にし、切り刻んである程度繋ぎ合わせ、特殊な魔法陣の中に置く。そしてそれぞれの生き物が持っていた生体情報を上手く混ぜ合わせ、一つのまとまった旋律とでもいうべきものにし、魔方陣の中に注ぐのだ。
そして成功すれば、あり得ない生き物の出来上がりだった。
――考えるだけでも吐き気がしそうだが。
自分がされる側になったら断固拒否だろうに、何故他者に対しては平然とやれるのか。
タシュアも自分の感覚が多少一般からずれている事は認識しているが、さすがにこれは理解の範疇を超えている。