Episode:46
目次を適当に読み流し、本文へと入る。
最初に書かれていたのは簡略化された神話だった。ただ最後のところが一般に伝わるものと違い、「初代グレイスが神を封じた」とある。
(よくある一族の美化ですかね)
神話と言うものは往々にして尾ひれが付く。ヘビを退治した話が大蛇になり、果ては竜になるようなこともあるくらいだ。
だからこれもおそらく、その類なのだろう。
その先は歴代グレイスに関することが書かれていた。とは言え名前と生まれた年代、それに没年程度だ。
ただ不思議なことに、全員短命だった。もっとも若いと10歳程度、長くても20歳前後で没している。
健康状態の悪かった昔でも、長命だったものは居る。それを考えると、全員が若死にというのは腑に落ちなかった。
ここの研究者達も、同じ点に着目したらしい。短命なことに言及したあと、一言「力足りず」と結論付けている。
(力、ですか……)
どうも言葉が上手く繋がらない。短命なことが生命力のなさと取れば辻褄は合うが、それとは少し違う気がするのだ。
シュマーの間では当然の事柄を、タシュアが知らないせいなのかもしれない。
とりあえず棚上げして読み進めると、よく知った名前が出てきた。
――現総領、カレアナ。
言わずと知れたルーフェイアの母親だ。
だが書いてあったことは予想とは違った。彼女に絡んで、秘密裏に実験が行われたらしい。
ひとつひとつ読んでいくうち、怒りがまた増していった。
(まったく、どこまで……)
この資料を読む限りではカレアナの両親、ルーフェイアから見た祖父母はかなり早く、子供がいないうちに亡くなっているらしい。
ただ、問題はその後だ。
子供を設ける前に祖父母が死んでいるのだから、本来ならそこでシュマーの総領家は絶えていたはずだ。
――残された受精卵がなければ。
最新技術のそれは、早々にシュマーにも導入されていたらしい。そしてそれを元にかなりの数の子供が作られ……カレアナはそのうちの一人だと資料には書かれていた。
しかも実験はそこで止まらず、さらに加速している。ただ子供を作る――それだって相当の犠牲が出る――のに飽き足らなくなって、子供の「加工」を始めているのだ。
ある程度予測していたとは言え、見逃せるようなことではなかった。