Episode:45
(――分かり辛いですね)
もっとポピュラーなアヴァン語などで書いてあるときもあるのだが、この資料はどれもシュマー語だった。そのためにタシュアからしてみると、かなり読み辛い。
1行目くらいまでは読んでみたものの、辞書が手元にないため専門用語らしきものが分からず、時間をかけていられないこともあって一旦断念する。あとで辞書を探し出してから、改めて読んだ方が良さそうだ。
他言語で書かれたものは無いかと探しながら、タシュアはふと思った。
今まで通信システムに勝手にもぐりこんで見てきた感想だが、シュマーは意外と多国籍だ。特に後方支援に当たる一群では、かなりの割合にのぼる。
なのにここでは、シュマー語が圧倒的多数を占める。さっきから殆ど他の言語を見かけない。
またここに居た研究者も呼ばれた警備兵たちも、ルーフェイアの命令が良く効いた。
その辺を考え合わせると、この集団はシュマーの血縁だけで構成されている可能性が高い。
おそらくはあまりにも問題が多い研究――そう思っていること自体驚きだが――のため、口が堅い血縁だけを選んだのだろう。
ただ逆に言うなら、自分の想像をも上回る可能性さえあった。
正直もう、何を言う気にもならない。この施設を問答無用で破壊して、焼き払った方がいいくらいだ。
それでも何とか自制しているのは、ここに証拠があるからだった。あとでどうするかはさておき、明確な証拠を押さえておくに越したことはない。
部屋の中は中央奥に机と魔視鏡、壁はどこも書棚という造りだったが、ところどころ本が抜けていた。
気になって調べてみる。
(いわゆる本はありますか……)
どうもなくなっているのはノートや研究結果等、ここで生み出されたものばかりのようだ。早い話が、証拠隠しだろう。
ここまで徹底しなくてはならない辺りからも、研究内容の非道さが分かろうというものだ。
冷たい怒りを抱えたまま辺りを物色するうち、タシュアは綴った書類束を見つけた。
中を見てみると、珍しくアヴァン語で書いてある。
(これなら分かりますか)
最初のページに目を通してみると、ここで行われていたことの概要のようだ。掘り出し物かもしれない。
だが2ページ目へ来た辺りでもう、タシュア怒りはさらに増す結果となった。
(ずいぶんと大規模ですこと)
そこには現代のことだけでなく、過去のことまで大雑把にだが、遡って書かれていたのだ。