Episode:44
罠がかかっていないかチェックしたあと、ルーフェイアが例の研究者を呼んだ。
「ここ、開けられる?」
「や、やってみます」
研究者――ラヴェルと言っただろうか――が、例によって細い隙間へカードを差し込み、さらにドアノブらしき場所の石に手をかざす。
が、何もおこらなかった。
「ダメ……ですね」
「見れば分かるでしょう」
言いながら扉を調べてみる。
かなり硬い鉄だ。それに叩いた感じ、厚みも相当ありそうだ。
(さすがに破るのは面倒ですか……)
隣で覗き込んでいたルーフェイアも、同じように思ったらしい。
「えっと……あの、破るの大変そうなので、あたし……開けてもいいですか?」
「開けられるのでしたら」
言って場所を空けてやると、ルーフェイアが腰につけていたポーチを漁って、研究者のと似た魔力石の板を取り出した。
色は完全な透明で、中に金のラインが一本走っている。
「それで開くのですか?」
「たぶん……」
「そんないい加減なことでは困りますが」
口ではそう言ったが、タシュアは邪魔するつもりはなかった。それで調べるまでに手間取っては、本末転倒だ。
ルーフェイアが自分のカードを隙間へ差し込み、ドアノブ代わりの石へ手をかざす。
石に柔らかい光が灯った。
「開いた、みたいです……」
「まったく、ずいぶんといい加減ですこと」
それにしてもシュマーというのは、本当にグレイスを中心にした組織なのだと思う。
何しろここが廃棄されたのは、ルーフェイアが生まれるずっと前の話だ。なのに彼女が持っているカードが有効なのだから、グレイスが居る居ないに関わらず、その特権が組み込まれているのだろう。
(やれやれ……)
あまりの忠誠ぶりに少々呆れながら、そっとドアを開けてみる。
だがやはり部屋の中は誰もおらず、資料だけが山積みになっていた。
(単なる資料室ですかね……?)
名前が書き込まれていたので、誰かがここで研究をしているのだろうと思っていたが、意外とそうでもないらしい。
奥に机があって、そこにいちばん資料が山積みになっているところから見て、この部屋の主が研究者らしいことは分かる。
ただここで何をしていたかは、さっぱりだった。
資料を見てみる。