Episode:43
だが議論(?)はすぐには結論が出そうになく、しびれを切らしてタシュアは歩き出した。
「……先輩?」
目ざとく気づいたルーフェイアが、声をかけてくる。
「先に行きます。いつまでも彼らの問答に付き合ってはいられませんので」
「あ、じゃぁあたしも……」
言って少女がついてきた。驚いたのは警備の連中だ。
「ぐ、グレイス様?!」
「あ、えっと、みんなで適当に……この施設、確保して」
本当に適当な命令を彼女が下す。だが何故かこれで、連中は納得してしまったようだった。
「了解です。この施設全体を確保します」
さっきまでの議論はどこへやら、一瞬にして全員が文句なく従ってしまったらしい。
「お願い。あと、えっと……ラヴェルさん、来て」
「はい!」
名指しされた研究者は、よほど嬉しかったのだろう。喜色満面だ。
(――やれやれ)
ここまで自分の意思がないとなると、シュマーはかなり危険だ。おそらく命じられれば、民間人の皆殺しも平然とやってのけるだろう。
幸いトップに居るルーフェイアやカレアナが、そういう残虐さを持ち合わせていないからいいようなものの……万一暴君が王座に付いたら、目も当てられない。
もっとも、だからといって今、積極的に何かをする気はなかった。何かで鉢合わせしたなら容赦する気はないし、そもそも関わりたくもない連中だが、こちらに被害が及ばなければどうでもいい。
仮にシュマーが各国を攻撃しようとも、知ったことではなかった。そんなものは、敵意を向けられた当人達が考えればいいことだ。契約ででもない限り、自分が出る理由はない。
「ルーフェイア、地図を」
「あ、はい」
タシュアの言葉に、あっさりと彼女が地図を手渡す。
(まったく、無用心ですこと)
厳密に言えば自分とルーフェイアは、敵対関係でもあるのだ。なのに自分の領土へ招き入れた上、一緒に行動し、果ては地図まで渡すというのだから、お人好しにもホドがある。
もちろんこの件に関しては、共同戦線を張っているとも言えるのだが……やはり少々用心が足りないだろう。
ルーフェイアの地図には、名前のほかにも色々書き込まれていた。ただシュマー語で読み辛いため、無視して名前のある部分から当たることにする。
最も近い部屋へと向かい、ドアの脇にタシュアは立った。
「気配、しませんね……」
「ええ」
案の定、もう逃げ出した後らしい。