Episode:41
「まぁせいぜいその紙切れを大事にして、後で首謀者でも割り出すのですね」
最後にそう言い放つ。
もっともこのくらいは、言われなくてもルーフェイアはやるだろう。シュマーの総領家でグレイスであのカレアナの娘でサリーアの従妹と言う割には、この子の感覚は戦闘関連を除けば、かなり一般人に近い。
だから気づかなかったと言う点で責はあるものの、放置することはないだろう。
――それでも、許す気にはならないが。
弄ぶ側にしてみれば、魔法で作った人形をいろいろいじってみたのと、大差ない感覚なのだろう。
だが、やられたほうはたまらない。お金や持ち物と違って、命には替えがないのだ。
(エウリス、アイシャ……)
弟妹の姿が脳裏をよぎる。
本来の姿とはかけ離れた状況で、戦うことを目的として生み出された彼らと自分。
過去に対しては、何を思っても無駄だ。出来ることがあるとすれば、未来に二度と起こらないようにすることだけだ。
だがそれでも、そこまで分かっていても、割り切れたとは言い難い。かつて命を弄んだ連中は許せない。
ましてや現在進行形で行っている連中など、死体の一片も残らないようにしても差し支えないだろう。
ルーフェイアたちのほうは、概ね書き込みが終わったようだった。
「すみません、もう行けます」
彼女の碧い瞳は、まだまっすぐこちらを見ている。普段あれほど脆くすぐ泣く割に、こういう場合は案外気丈だ。
もっともルーフェイアの場合、戦闘状態か否かで相当変わることを思うと、単に今は戦闘状態か、それに準じた警戒態勢なだけかもしれなかった。
(後で泣くのですかねぇ)
ふとそんなことを思う。
別にそれで問題があるわけではないが、タシュアにしてみれば無意味としか思えなかった。いくら泣いたところで、何かが解決するわけではない。
要するに、まだ甘いということだ。
ひとつ息を吐いて歩き出す。
ルーフェイアの足音は聞こえないが、付いてきているだろう。この子はこういうところではミスをしない。
ただ意外だったのは、警備とやらの連中も付いてきたことだ。自分達の主であるルーフェイアに、付き従おうと言うのだろう
(迷惑ですね……)
他の人間なら歓迎するのかもしれないが、タシュアはそうは思わない。
とかく他人というのは――シルファは別――こちらの意図を、悪気なく邪魔してくる。そしてそのたび、こちらは計画を修正せざるを得なくなるのだ。