Episode:40
もっとも「命令が納得できない」と言って逆らえば、どう考えても懲罰対象だろう。軍としては、それでは成り立たないのだから。
場合によっては不名誉な除隊、国によっては処刑もあるだろうが、タシュアにしてみればそれも「自業自得」だった。
それが嫌なら、入隊しなければいいだけの話だ。
ルーフェイアのほうはどう思っているのか知らないが、少し考えて別の質問をした。
「ここ、何人くらい居るの?」
「詳しくは。ですが我々を含め大体100名ほど居ると、最初の頃に聞きました」
警備とやらに来ている兵は20~30名と言ったところだから、逆算すると50名以上の研究者がいることになる。かなり大掛かりだ。
が、現時点ではもうそれほど居ないのではないかと、タシュアは踏んでいた。もし自分がここの責任者なら、警備用とやらの人間を呼んで配置した時点で、証拠隠滅と脱出にかかる。
ここの連中がそれにも気づかないほど間抜けならいいが、さすがに都合が良すぎる考えだろう。
「そうしたら、ここの奥の部分……分かることがあったら書き足してくれる?」
ルーフェイアが、先ほど研究者に書き込んでもらった地図を差し出す。
「了解です」
警備兵のリーダーがそれを受け取り、書き加え始めた。
動力炉周辺に次々と名前――部屋の使用者らしい――が書かれていき、それを見たルーフェイアがため息をつく。
「知り合いですか」
「知り合いと言うか……何度か会ったこと、あります。偽名じゃなければ、ですけど……」
「全体的にやや無用心ですからね。偽名までは思いつかないでしょう」
推測を述べる。
廃屋に偽装されていた入り口や、合成獣の配置、警備兵を呼んだこと等から、ここの連中が防備にある程度気を遣っているのは見て取れる。
が、所詮は素人の域を出なかった。いろいろなところで詰めが甘い。
だからここから脱出の手はずは整えていても、警備兵に偽名で名乗ってはいないだろう。
ルーフェイアの表情がますます暗くなる。
「そんなことで嘆くくらいなら、気づかなかった自分をまず嘆くのですね。事が起こってから後悔するのなど、誰にでも出来ますよ」
「はい……」
律儀に少女が返事をした。
シルファ辺りが見たら可哀想だと言いそうだが、タシュアはそうは思わない。この子には現時点でこれだけの権力があり、ゆくゆくはシュマー全てを配下に置く。
ならば相応の責任があって当たり前だ。
例えばどこかの王国で革命が起きれば、仮にその国の王が少年だったとしても、責を問われるだろう。そうなってから「知りませんでした」では済まない。
要はそれと同じことだ。