Episode:04
「ともかくいい加減にして。用がないなら帰ってちょうだい!」
「でもその、彼の組織サンプルをもらわないことには……」
性懲りもなくファールゾンが、またその話を口にする。
――それにしてもしつこい。
普段ならさすがに引き下がってるはずだ。良いか悪いかは別にして、シュマーはあたしの言葉にはまず逆らわない。
「だから、それはダメだって言ってるのがわからないの?!」
「ダメって言われても、必要なものは必要なんだが……」
「いったい何に必要だって言うのよ!」
何度言ったら分かるんだろう?
研究を進めたい気持ちは分からないでもないけれど、だからって赤の他人まで使うなんて非常識、許されるわけもないのに。
「なにに必要って……そりゃ、グレイシアの治療だよ。彼の生態情報とつきあわせれば、あの子の欠損部分を補完できるんじゃないかと思うんだ」
「――! なんでそれを先に言わないのっ!!」
これはもう、常識外れって域じゃない。バカさえ通り越してる。
なんでこんな大事なことを、訊かれるまで黙ってるんだろう?
「え? だから言ったじゃないか。彼の生態情報を解析したいって」
「そういう話じゃなくて!」
「――2人とも、漫才はそのくらいにしてください。聞いてる方が馬鹿らしくなってきます」
タシュア先輩の呆れ果てた声が間に入って、ようやくファールゾンのバカが止まった。
「そんなに馬鹿らしいかな? まぁいい、それで悪いがサンプルを……」
ファールゾン、まだめげずに同じセリフを言うし……。
「死にたくないのなら、まずきちんと挨拶してお願いしなさい」
「ん? あ、今からでもいいのか?」
「いいから!」
どっと疲れてくる。あたしも世間一般にはけして詳しいわけではないけれど、ファールゾンときたらその数倍という感じだ。
ただこの妙なやりとりとは裏に潜んでいるのは、おぞましい事実だった。
ことの発端は、3週間ほど前に遡る……。