Episode:39
タシュアの大剣は狙い通り、合成獣の胸元を深々と貫いていた。
「まったく。意表を突かれたくらいでこれでは、実戦でなど役に立ちませんね。まぁもう、実戦に出ることはないでしょうが」
言いながら剣を引き抜き、振るう。
合成獣の人型の上半身が切り落とされ、四つ足の獣の部分も傾いて倒れた。
完全に動かなくなったのを確認したうえで改めて、警備役だったらしい襲ってきた連中に目をやる。
(戦闘集団という割には、この程度で半減とは情けない……)
そんな思いしか浮かばなかった。
ルーフェイアに動くなと命じられたため、身動き取れなかった可能性は確かにある。だが例えそうだとしても、戦場で自分の命も守ろうとしない者はただの足手まといだ。
そんな人間がシュマーの中に存在したことに、むしろ驚く思いだった。
ざっと見渡して、襲ってきた連中のリーダーと思しき人間に尋ねる。
「他に警備は?」
だが相手は、硬く口をつぐんだままだった。
(無駄に忠誠心だけありますこと)
ある意味四角四面な態度に呆れつつ、言う。
「ルーフェイア、出来ますね」
とっとと進んで全て蹴散らしていけば済む話だが、情報が手に入るなら聞いておいた方がいい。
そしてそれが、ルーフェイアになら可能だ。
金髪の後輩が頷いて、後を引き取った。
「知ってること、教えて」
「――はい」
生粋のシュマーらしく、彼女の問いには素直に答える。
ルーフェイアのほうも普段とは少々違い、どことなく振る舞いが尊大だ。
「……警備は?」
「他に、もう1分隊。ただ位置は分かりません。おそらく動力炉周辺を固めていると思われますが、移動した可能性もあります」
嘘をついているようには見えなかった。また先ほど研究者――本当に役に立たない――から訊いた情報とも合致する。だから真実と見て差し支えないだろう。
もちろん、現状がこの情報のままとは限らないが……。
「ありがとう。じゃぁ、ここで何の研究をしているかは?」
「申し訳ありませんが、それについては聞いていません」
さもありなん、と思う。
自分としては命令を単に鵜呑みにするなどありえないが、通常の兵ならば、このように躾けられるものだ。
(それで死んだら元も子もないのですがねぇ)
死地と分かっていて上が命令を下すのは、ままある話だ。そしてそういうことを知らずに死ぬのは、自業自得だ。