Episode:37
それに対して何も答えず、タシュアはまた剣を構える。
ルーフェイアのほうも無言で太刀を構えた。
しん、と静まり返った、だが張り詰めた空気。
シュマーの面々の間にも伝播したのだろう、彼らもそれぞれに武器を構える。
そして、がりがりという引っかくような音。
さらに隔壁が丸ごと動いて、徐々に下へと下がっていく。
「まったく、相変わらず悪趣味ですこと」
半分ほど下がった隔壁の向こうに居たのは、先ほどと同じような半人半獣の生き物だった。
ただ見た感じ、こちらのほうが年上のようだ。人の部分が、先ほどのものよりがっちりしている。
まだ防御魔法が切れていないのだけ確認して、タシュアは動いた。何もわざわざのんびりと、相手の体勢が整うのを待つ理由などない。
「――サメン・アイギスっ!」
見計らったように背でルーフェイアの声が聞こえ、合成魔の顔面が軽く凍りついた。
隙を逃さず切りかかる。
「……おや」
つい声を上げたのは、この合成獣の姿もかき消えたからだ。魔法でダメージを受けたから実体ありと踏んだのだが、かなり手の込んだ虚像だったらしい。
瞬間何かの魔力を感じて、とっさに床に伏せる。
――熱波。
頭上を光の矢が、後ろから前方へと通り過ぎていった。当たっていたら黒焦げだ。
「先ほどよりは、少し骨がありそうですか」
後ろの隔壁が下がっていたのには、気づいていた。だからこそ警戒していたのだが、ここまで巧妙とは予想外だ。
とはいえ、面白くもあるのだが。
命を賭ける気などさらさらないが、それとは別に強い相手というのは、戦っていて楽しい部分はある。読める相手ばかりではつまらないというものだ。
起き上がって向き直ると、辺りは惨事になっていた。
おそらくはあの光の直撃を食らったのだろう、いくつかの死体、中には下半身しかないものも転がっている。
(不注意ですねぇ)
片側ばかり見ているからそうなるのだと言ってやりたいところだが、残念ながら当人には聞こえなそうだ。
(さて、どう行きますか)
さすがに無策の状態で突っ込んでは、この相手だと死にに行くようなものだろう。
こういうことでは真っ当な思考パターンを取るルーフェイアも、同じことを思っているのか、こちらに視線を寄越してくる。