Episode:35
◇Tasha side
入り込んだシュマーの廃棄施設は、予想通りの場所だった。
何か大型の獣とおぼしき物を改造して三つ首にしてみたり、さらには人――シュマーの者だから人というには多少語弊があるかもしれないが――と合成したりというのだから、呆れ果てるしかない。
もっともシュマーなどと言うものに、倫理観を求めること自体が間違っているのだろうが。
そのシュマーの中にありながら、どういうわけか割合まともな感性を持っているルーフェイアは、さすがにショックを受けたようだ。最初は研究者等をかばうそぶりを見せていたが、だんだんそれが無くなっている。
「これも、カギ開けて」
「はい」
ルーフェイアに命じられて、いい年をした大人が素直に従った。先ほどと同じような手順で、この研究者がロックを解除する。
その間にルーフェイアは、隔壁の向こうに撃ち込む魔法を準備し始めた。
「遥かなる天より裁きの光、我が手に集いていかずちとなれ――」
一般的に使われる中では、最上級クラスの呪文。どうやら容赦する気はないようだ。
自分の身の安全を確保しつつ、タイミングを見計らって僅かに扉を開ける。
どういうわけか魔法は、何かで遮られていると上手く発動しないことが多い。ただ同じように遮られていても、透明なガラスなどの向こう側なら発動させられるという者が、少なからず居る。また知っている場所なら、完全に遮られて視えなくても平気、という者も居る。
この辺を考え合わせると、要するに詠唱者の認知の問題なのだろう。
ただいずれにせよ、ドアがあるなら開けておいたほうが確実だ。
「ケラウノス・レイジっ!」
隔壁の向こう側でルーフェイアの魔法が炸裂した。雷撃になぎ払われたのだろう、悲鳴が上がる。
その声が消える前に、タシュアはドアの向こう側へ踏み込んだ。
視界に映るのは、おおよそ十数名。
(狭い場所に、何をたむろしているのやら)
タシュアが中央で大剣を振れば、かなりの部分が間合いに入るような狭い通路だ。密集していては「殺してください」というようなものだった。
事実敵はルーフェイアの魔法で感電し、身体の自由を奪われてしまったのもあって、あっさりと屠られていく。
僅かに狩り残した敵も時間の問題だ。身体の自由を取り戻した者から隊形を立て直そうとしているが、そんなヒマを与えるつもりはない。
だがそのとき、後ろのほうで情けない悲鳴が上がった。ルーフェイアのものではない。あの馬鹿な研究者のものだ。