Episode:34
壁にかけられた案内板を見ると、次の隔壁まではまだ少しありそうだった。
歩きながら振り返って、後ろにいる研究者の人に尋ねる。
「警備に呼ばれた人数、やっぱり分からない?」
「詳しくは……。ただ二、三十人はいると思います。そのくらいの一団、見たので」
だとするとその二、三十人が、最定数だろう。
面倒だな、と思う。
こういう狭い場所だから、一度に相手するのは数人だ。ただその代わりに、あちこちで何度も相手をすることになる。どう考えたって楽じゃない。
まぁそれを言ったら究極は、戦闘がないのがいちばんいいのだけど……。
タシュア先輩は何も言わなくて早足で、後から小走りで追いかける。後の研究者の人なんて、ふだんよほど歩いてないのか、肩で息をしてるありさまだ。
そうしてるうちに、次の隔壁が近づいてきた。壁の造りはほぼ同じで、同じようなドアと、取っ手代わりの魔力石があるのも同じだ。
隔壁の向こうからは、たくさんの人の気配がする。恐らく「警備の人」とやらが、待ち構えてるんだろう。
「開けたら、総攻撃されますよね……」
「当然でしょう」
先輩に「当たり前のことを」という顔をされる。
――どうしよう。
あたし一人なら、防御魔法をかけて突っ込んでしまうのだけど……先輩の採ろうとしてる戦法が分からない。
それとも勝手に、先輩に防御魔法をかけていいんだろうか。
「何を突っ立っているのです。それしか出来ないならさっさと戻りなさい」
「あ、いえ……ドア少し開けたら、まず魔法ですよね?」
それ以外ないだろうと思いながらも確認する。
「他にもっと良い手があるのでしたら、教えていただきたいところですね」
どうやら先輩も、この方法で行くつもりらしい。
「あの、そしたらあたしが……撃って、いいですか?」
先輩が前へ出て剣を振るうことを考えると、分担したほうがいいはずだ。
「巻き込むのは自分と、その後ろの馬鹿者だけにしてください」
また少し考える。でも撃っちゃいけないとは言っていないから、たぶんいいんだろう。
タシュア先輩の言葉ははっきりしたイエスノーがなくて、あたしにはどうも分かりづらい。
とりあえず、あたしは後ろから例の研究者の人を呼んだ。
「これも、カギ開けて」
「はい」
彼がさっきと同じような手順で、扉のロックが外しにかかる。
その間にあたしは自分と先輩に防御魔法をかけて、さらに攻撃用魔法の詠唱も始めた。
「遥かなる天より裁きの光、我が手に集いていかずちとなれ――」
タシュア先輩が危なくない位置から、タイミングを見計らってほんの少し、ドアを開けてくれる。
「ケラウノス・レイジっ!」
隔壁の向こう側で、魔法が炸裂した。