Episode:33
敵には遭わなかった。合成獣を1体倒してるんだから気づいてると思うのだけど、ここで対応する気はないらしい。
逆に言えば、次の隔壁の先が大変なのだろうけど……。
タシュア先輩を見上げながら、自分はどう動こうかちょっと考える。
戦ってるのをあまり見たことがないけど、タシュア先輩は苦手な事がほとんどないと思う。魔法も普通じゃ使えないようなものまで使っていたし、剣も今まで見た限りじゃかなり使える。
――あたしがすること、あるだろうか?
この程度の狭い場所なら、全部1人で片付けてしまいそうだ。
ただ何となく、あたしが前へ出ないほうがいい気はした。
あたしとタシュア先輩じゃ、白兵戦は先輩のほうが上だ。何しろ体格や武器が違いすぎる上に、あたしと同じ戦場育ちだからかなわない。けど魔法のほうは、白兵戦ほど差はないと思う。
だったらあたしが後方支援に回って先輩が前へ出るほうが、能力的に合ってるだろう。
まぁタシュア先輩じゃ、支援する必要さえなさそうだけど……。
「何を見ているのです」
急に鋭く先輩に言われて、心臓が跳ね上がる。
「人の顔を見るのが失礼だと、教わってもいないのですか?」
「あの、いえ、次の戦闘、あたし……どの位置に、立とうかと思って……」
我ながら言ってることが要領を得ない。
けどどうしてか、先輩は何も言わなかった。あたしが喋るのを、待っててくれてるようにも見える。
だから頑張って言ってみた。
「えっと、その……あたし、後方でいいですか……?」
「魔法を撃つのは構いませんが、巻き込まないようにしてもらいたいものですね」
言われた意味を少し考える。
魔法を撃つのは構わなくて、でも巻き込むなっていうんだから、たぶん気をつければ撃ってもいいんだろう。
つまり、後方でいいって意味になる……はずだ。
最初感じてた罪悪感は、消えてきてた。
成り行きでタシュア先輩とここまで来てしまったけど、よく考えてみるととんでもない話だ。シュマーという自軍へ敵を連れ込んだのに近い。実際、先輩に容赦するつもりがあるようには見えないし、案内してくれてる研究者は殺されるところだった。
でもここで何がされてたかを知って、許せない気持ちのほうが強くなっていた。
あたしは相当甘いほうだと思うけど、それでもここでニコニコと研究してたような人は、かばう気になれない。
しかも相手が謝るでもなくて、兵をけしかけてくるならなおさらだ。