Episode:32
「あ、あれを、一撃で……」
後ろで研究者の人が声をあげる中、合成獣は倒れた。
「ぼ、僕の作った合成獣より、ずっと強かったのに……」
なんか一瞬殴りたくなったのは、気のせいだろうか?
こんな合成獣を何体も作るってだけでもどうかしてるのに、さらに小さい子みたいに強さ比べするなんて。
ぜったい生き物って、そんなふうに扱うものじゃないはずなのに。
「あ、あの、グレイス様?」
「今みたいなこと、二度と言わないで」
さすがにあたしも声が冷たくなる。
「わ、分かりました……」
どこか怯えたような声に、ちょっと可哀想だったかな?と思う。けどだからと言って、命をおもちゃにするようなことは許せなかった。
「いつまで遊んでいるのです、行きますよ」
トドメとばかりに合成獣の首を落とした先輩が、あたし達に言う。
その死体を見ながら思った。
――誰だったんだろう?
シュマーの誰かと言うところまでは見当がつくけど、それ以上は全く分からない。実験材料――本当に嫌な言葉――にされた人の記録が残ってればいいけど、たぶん消されてしまってるだろう。
あとで遺体だけでもちゃんと回収しよう、そんなことを思いながら先輩の後に続く。
血の臭いでむせ返る、けど奇妙に冷たい通路。そこを歩きながら、あたしは先輩に訊いた。
「あの合成獣の本当の場所……やっぱり、音と気配ですか?」
「ええ」
簡潔な答えが返ってくる。けど、続きがあった。
「それと、床ですね。場所によって微妙に、見え方が違いましたよ」
「あ……」
どうりであれほど正確に、間合いが取れたわけだ。あたしはそこまで気づかなかったから、どうして先輩がきちんと剣を振るえたのか分からなかった。
「――まったく。この程度も気づかないようでは、幾つ命があっても足りませんよ」
「はい……」
先輩の言うとおりだ。こういう小さなことを知っているか居ないかが、前線じゃ生死を分けたりする。
ただちょっとだけ、教えてくれているのかな?とも思った。まぁこれは、あたしの勘違いかもしれないけど……でも知らなかったじゃ済まないから、答えてもらえるのは本当にありがたい。
廊下は延々と続いていた。でも近いとはいえ島と島を繋いでいることを考えると、距離があるのは仕方ない。