Episode:31
――出来るだろうか?
自信はない。けど、試さないで終わりにはしたくなかった。
合成獣と目が合う。
「動かないで」
命じた瞬間、“それ”が動きを止めて頭を下げた。まだあたしの命令が効くみたいだ。
「こんな姿にされても、シュマーはシュマーと言うことですか。大した忠誠心ですこと」
先輩が軽蔑したように言う。もっともそんなふうに思われても、シュマーなら否応なしにそうなってしまう部分だから、どうすることも出来ないのだけど……。
ともかく動きが止まったのだから、何とかするなら今だ。
「あの、今のうちに――」
「無理そうですがね」
言い終わるか終わらないかのうちに低いうなり声をあげて、合成獣が顔を上げる。ただ頭を振りながらで、すごく苦しそうだ。
「命令がぶつかりましたか」
先輩が冷静に分析する。
巨鳥や走竜もそうだけど、こういった人のために何かさせる動物には、大抵支配の魔法がかけられる。じゃないと、たちまち暴れ出したり逃げ出したりで、使い物にならないからだ。
この合成獣にはたぶん、「侵入者を排除」という命令がされてるはずだ。けど元がシュマーの誰か――考えるだけで吐き気がする――だったせいで、シュマーの一族が持つ「グレイスへの服従」も持っている。
そこへあたしが侵入者として来たから、魔法と本能とに挟まれてしまったんだろう。
よっぽど苦しいんだろう、合成獣が腕を振り回して足を踏み鳴らして、それでも一歩こっちへ踏み出した。
「向こうの命令が勝ちましたかね」
先輩は言うと大剣を構えた。
柄まで入れると、あたしの背丈以上ありそうな両手剣。黒い刃はいわゆる金属の黒光りとは違って、何も映してなかった。
ただただ黒くて――なぜか怖い。禍々しいってわけじゃないけど、あたしとすごく相性が悪い感じだ。触ったら何か吸い取られそうな気がする。
合成獣がもう一歩踏み出した瞬間には、先輩は動いてた。そのまままっすぐ突っ込んでいく。
ぶつかるのも構わず突き進んで、もっと左奥、一見見当違いの位置を薙いだ。
――絶叫。
半人半獣の“それ”の姿がまた消えて、先輩のいる位置へ現れる。
「そんな子供騙しが、何度も通用するわけがないでしょうに」
刃が獣の胴を切り裂いていた。
さらに胸へ、剣が突きたてられる。