Episode:30
「いったい、どれだけやってるの?」
「分かりません。僕は言われたあの固体だけなので」
このまま座り込んでしまいたくなる。生命をおもちゃにするような真似をしてるのに、何でこんなに知らん顔で居られるんだろう。
この扉の向こうに居る「何か」も、元はここの研究者の誰かが作り出したものだろう。
研究そのものがダメってことはない。もしそうなら、薬の研究なんかも全部ダメになる。
けど、やっていいことといけないことがあるはずだ。その中でも生き物を好き勝手にすることは、いちばんやっちゃいけないことのはずだ。
なのにここではそれが当たり前で、隣が何をしているかさえ気にしない状態だった。
何だかもううつむきたい気持ちで、そっとドアを開ける。
けど、そのまま動けなくなった。
「なに、これ……」
さっきの三つ首の合成獣と似た、四つ足の獣だ。ただ違うのは、首にあたる部分から人間の上半身が生えていることだった。
これだけで、ここで何をしていたのかおおよそ分かる。
タシュア先輩が無言で進み出た。既に大剣が抜かれている。
次の瞬間、先輩は一気に間合いを詰めていた。
漆黒の剣が振り上げられる。
――けど。
剣が触れたと思った瞬間、合成獣の姿がかき消えて、もう少し奥へ現れた。
「……ほう」
予想外のことだけど、先輩が動じた様子はない。
あたしもこれは初めて見たけど、要するに魔法だろう。魔視鏡なんかも要は魔法で映し出した幻影だから、たぶんそれと似たような原理だ。
あとで出来たら覚えよう、そんなことを考えながら先輩の横に並ぶ。
「あの、あれ、助けるわけには……」
「相変わらず甘いですね。向こうは我々を殺すつもりですよ」
確かに先輩の言うとおりだ。殺しに来る相手は、こっちも手加減なんて出来ない。
それでも――助けたかった。
理由は、半分「人」だからだ。
いったい何をどうしたら出来るのかわからないけど、上半身が人間なんだから、誰か材料――そんなふうに言いたくない――人が居るはずだ。たぶん、シュマーの誰かなんだろう。
それを殺したくなかった。
「あの、じゃぁ、少しだけ時間を」
「何をするつもりやら」
言いながら先輩があたしに場所を空けてくれる。
半人半獣の“それ”が、あたしに視線を移した。