Episode:03
「それで、組織サンプルをもらいたいんだが」
性懲りもなくまた彼が繰り返した。
ただ、相手はタシュア先輩だ。ここまで話をこじれさせたら、交渉がまとまるわけが無い。
「お願いですから、人間の言葉を話していただけませんか。あいにく、猿の言葉まではマスターしていませんので」
「あれ? シエラは多国語を教えてると聞いたが、違ったのか?」
見ているこっちがはらはらする。
「……シルファ、行きますよ。時間はありますが、猿の相手をしてられるほど暇ではありませんから」
「あ、だからちょっと待ってくれ」
さっさと行こうとするタシュア先輩の肩を、ファールゾンがつかみかける。
けどその手が触れるか触れないかといったところで、先輩が動いた。すっとよけて、そのままファールゾンの顎をつかむ。
――うそ。
爪先が浮いていた。
タシュア先輩に比べればやや低いけど、それでもファールゾンは平均的な成人男性の体格をしている。
その彼を片手で……。
「先ほどから雑音を発するのは、この口ですか?」
苦しいのだろう、ファールゾンが必死に先輩の腕を掴んで振りほどこうとしたけど、びくともしなかった。
「なんのつもりか知りませんがロクに挨拶もしないうえ、組織を分けてくれないか、ですって? どういう教育を受けてくればそんなことが言えるようになるのか、知りたいですね」
そこでファールゾンが放り出され、尻餅をついた。先輩が力を抜いたんだろう。
咳き込みながら彼が言う。
「噂には、聞いていたが……シエラというのは、しゅ、シュマー以上に乱暴だな。グレイス、やっぱりここはやめた方がいいんじゃないか? キミまできっと、ガラが悪くなる」
「それとこれとは関係ないでしょう!」
いきなり無関係の話を振られて、あたしは思わず怒鳴った。