Episode:29
「まったく。そんなオモチャにうつつを抜かすなど、いまどき子供でもやらないでしょうに」
「お、おも――」
何か言いかけた研究者の人を、手で制して黙らせる。
タシュア先輩から見たらここは敵地で、居るのはあたし以外全員敵のはずだ。というか、あたしでさえ「処分保留」というだけで、味方とは思われてない気がする。
そんな状態で、また騒いだら……。
静かな廊下は何も居なくて、最初の隔壁まではすんなりたどり着いた。
「あなた以外の研究者、居なかったの?」
「いえ、居ます。居るけど少し遠いので、気づかなかったのかと」
まぁ確かにあんな大きな合成獣を研究してたら、部屋も相当大きくないとダメだろう。そうなったら隣の人と離れてしまうのは仕方が無い。
ただそのおかげで気づかれなかったんだから、何とも言えないところだ。
目の前の隔壁はしっかり閉まってて、ちょっと叩いたくらいじゃ壊れそうに無いほど頑丈だった。
取っ手はないけど、ちょうどその辺りに魔力石が嵌め込まれてる。きっとこれで、生体情報を見分けるんだろう。
「扉、開けてくれる?」
連れてきた彼――どうも名前を呼ぶ気になれない――に言って、場所を譲る。
「はい」
まず扉脇の細い隙間に、さっき見せてくれたカード型の魔力石が差し込まれて、次に扉の石に手がかざされた。
かちりと音がして、鍵が外れる。
「開きました」
「この程度で威張れるとは、ここの研究のレベルもたかが知れてますこと」
どうだと言わんばかりの彼に、タシュア先輩が冷たく言い放つ。
研究者の彼がまた何か言い返そうとしたけど、これもあたしは手振りで押さえた。
彼は気づいてないだろうけどタシュア先輩、完全に戦闘体制だそんな状態の先輩に食って掛かったらどうなるかは、考えるまでも無い。
「そこ、どいてくれる?」
さっきとは逆に彼を下がらせて、あたしが扉のところまで出た。身体を貼り付け耳を押し当てて、向こう側を探る。
――何かの、気配。
たぶん言ってた、守るために置かれてる合成獣だろう。
一回扉から離れて、訊ねる。
「どんなのが置かれてるか、知ってる?」
「すみません、作ったの僕じゃないので……」
とても何気なく、吐きたくなるような答えが返ってきた。