Episode:28
「それでグレイス様、どこへ行かれますか? 何かご入り用なものは? 誰かに連絡――」
「黙って」
とりあえず命じて黙らせる。まだこの人、分かってない。
「訊かれたことに答えるだけで、いいから」
「分かりました」
あたしの命令が効く人で、良かったと思う。そうじゃなかったらもういい加減、タシュア先輩に殺されてそうだ。
思わずため息が出る。
あたしがここへ来たのは、真相を知るためだ。そしてそれは、タシュア先輩もあまり変わらないと思う。
ただあたしは早い話が関係者なのに対して、タシュア先輩は部外者で、たぶんここは「敵地」という認識だ。そのせいで、何だかすごく複雑なことになってる。
一緒に来たこと自体は間違ってないと思うし、ここで何が行われてるか白日の下に晒さなきゃいけないのも確かだ。
けどその過程で、何が起こるか予想も付かない。ただあたしの立ち回り次第で血が流れそうだった。
「あなたが言ってた、立ち入り禁止の場所は……どこ?」
「動力炉の辺りです」
予想通りだ。
地図を見てみると動力炉周辺までは、通路が隔壁で三つに区切られてるみたいだった。たぶん、何かのときに完全に遮断するためだろう。
「ここの隔壁は、普段は開いてるの?」
「いいえ。逃げ出すといけないと、閉めてました」
それはどうなんだろうと思う。逃げ出して騒ぎになるようなもの、そもそも要らないんじゃないだろうか?
「そこの扉、あなたなら開けられるのね?」
「はい。でないと、困りますし」
この感じだと、とりあえず中央部分まで行くことは出来そうだ。
その先禁止区域は入れなそうだけど……それを今ここで考えても仕方ないだろう。
「行きますよ」
「あ、はい。――あなたも来て。あと、喋らないで」
釘を刺してから、先輩のあとに続く。また迂闊なことを言って、騒ぎになったらたまらない。
通路は静かだった。
「ここの警備、何人くらいかは……分からないよね……」
「すみません、人数は。でも、合成獣なら分かります。確か2頭」
だんだん呆れてきて、言う言葉が無くなってくる。これでなんで、おかしいと思わないんだろう?