Episode:27
「ここの認証カードは……持ってる?」
シュマーの施設は、殆どこれで管理されてる。
もちろん無くても、あたしの場合は何とか通れる。次期総領の特権を使って、強引に開ければいい。
ただ、面倒だった。本来開かないものを開けさせるのだから、扉毎に毎回作業をしなきゃいけない。その上一旦、主になっている魔視鏡に照会するから、発見される可能性もかなり高い。
だからここに常駐している人のカードが使えれば、そのほうが便利だ。
「はい、あります。ご入り用ですか?」
座ったままの彼が、白衣のポケットから1枚のカードを出した。記録石を加工して作ったものだ。
「予備は……ある?」
これを貰っていったら、即この人が困るだろう。
「予備はありません。生体情報とセットなので」
「え……」
こうなるとかなり厄介だ。
「要するに、登録された生体以外通れない、ということですか?」
タシュア先輩に問われたけど、白衣の人は視線を逸らして黙ってる。様子からして、怖がってるみたいだ。
先輩に「何とかしろ」というような視線を向けられて、あたしは口を開いた。
「――説明して。生体情報とセットってどういうこと?」
「次の区画への扉が、カードと本人がセットでないと、開きません。もっとも1回開けばしばらく開いてるので、その間は誰でも通れますが」
思ってたより、警備は厳重そうだった。これだとあたしの特権を使っても、出入りはけっこう大変だろう。
だとすると……この彼を連れて行くのが、たぶんいちばん早い。
タシュア先輩のほうに向き直る。
「先輩、あの、この人を連れて行って……いいですか? そうすれば、大体の場所は通れると思うので」
「足を引っ張るようなマネを、されたくないものですね」
そうは言ったものの、先輩の口から「NO」という言葉は出なかった。これならたぶん、大丈夫だろう。
「一緒に来て、えぇと……」
ここまで言って、まだ名前を聞いてなかったことに気づく。
「名前は?」
「ラヴェルです」
聞いた瞬間、ずきりと胸の奥が痛んだ。
けして珍しい名前じゃない。もしかしたら、良くある方かもしれない。けどその名前は――死んだ兄さんと同じだ。