Episode:25
「えぇと、その、分かるのはこのくらいで……」
言われて、地図への書き込みを見てみる。
この辺の区画は、あまり使われていないようだった。合成獣の研究を幾つかしてるようだけど、それだけだ。細かく書き込まれている場所は、中央から東側に集中していた。
「人も警備も、ここなの?」
中央部、動力炉の辺りを指差す。
「そのはずです。ただ、僕は行くと怒られるので……」
なんだか可哀想な人だ。
ふと思いついて訊いてみる。
「どうして……あなたは、ここに?」
人は見かけで判断しちゃいけないというけど、この人あんまり、ガンガン研究して――というタイプには見えない。なのにこんなところでこっそり研究してるのが、ちょっと腑に落ちなかった。
「どうして、と言われますと?」
「えっと、だから……なぜここへ? 志願?」
我ながら支離滅裂な訊きかただ。でも幸い、意味は通じたらしい。
「あ、その意味でしたら、師に付いて。ここで研究をするから、手伝えと言われまして」
要するに、深く考えずついてきただけみたいだ。
「その研究……おかしいと、思わなかったの?」
タシュア先輩があれほど怒るのだから、真っ当な研究とはとても思えない。だったら関わった時点で、何か感じたはずだ。
けど返ってきたのは予想外の答えだった。
「合成獣を兵士代わりに使うというのは、研究として普通じゃありませんか?」
何の疑問も抱いていない表情。
「合成獣なら、幾らでも作れますし。まぁ時間は少しかかりますけど」
「そうじゃなくて……」
彼の言ってることは、確かにある意味正論だ。けどあたしが言いたかったこととは、方向が全く違う。
「だから、その……ホムンクルスとか、おかしいでしょう?」
「何がですか?」
全く話が通じない。言葉は通じていても、お互いに言ってることがすれ違う。
「――ルーフェイア、時間の無駄です。そもそもまともな神経があれば、ここへ来ていませんよ」
タシュア先輩が冷たく言い放った。
「連れてこられたのか何なのか知りませんが、何の研究かも良く調べず手を貸す時点で、同様に悪質です」
今にもこの研究者を始末するんじゃないかっていうくらい、先輩の声は冷たかった。