Episode:02
「ともかくダメなものはダメ! あたしの採血だけしてさっさと帰ってくれる?」
「髪の毛の1本でも構わないんだが」
「ダメだって言ってるでしょう!」
研究熱心なのはいいけれど、こうなると頭に「バカ」の字がつく。ともかくどうにかして、ここから引き離さないといけない。
と。
「こんなところで何をしているのですか。他人の迷惑を考えなさい」
「あ、タシュア先輩……」
言ってしまってからはっとする。最悪のタイミングだ。
「ああタシュア、いいところに。すまないが少し、採血させてもらえないか」
「ファールゾン、やめなさいっ!!」
とっさに怒鳴りつけたけど、それでやめるようなら苦労しない。
けど先輩が口にした言葉は、予想とはまったく違うものだった。
「ルーフェイア、イマドが探していましたよ」
「イマドが……?」
何の用だろう。
考え込むあたしに、シルファ先輩も声をかけてきた。
「これから町へ買い出しに出るんだが……何か食べたいケーキは、あるか?」
「えっと……」
何かと訊かれても、よく分からないのだけど……。
そもそもあたしじゃなくて、問題はここにいるファールゾンの気が。
「おい、聞いているのか?」
ファールゾンの声がいくぶんか荒くなる。珍しく自分が無視されてることに気づいたらしい。
ただそれ以上はぜんぜん駄目そうだ。何で無視されてるかが分かってない。
さすがに呆れて、あたしが口を出そうとしたとき。
「先ほどから猿がうるさいですね」
しばらくの沈黙のあと、ようやくファールゾンが口を開く。
「猿……とは、僕のことか?」
「他に誰がいます」
ここにきて、ようやくタシュア先輩がファールゾンの方を向いた。
いつも以上に冷たい声。
――先輩、怒ってる。
もっとも肝心のファールゾンは、いつもどおりで気づいていない。
「うーん、今までいろいろ言われたが、『猿』は初めてだな。でも僕に似た種類の猿は居なかったと思うな……」
冗談も皮肉もどうも通じないファールゾン、的外れな事を言っている。