Episode:18
「あの、先輩、たぶん何もないと思うんですけど……一応見ていただいて、いいですか?」
こういう罠の発見と解除は、先輩のほうが上手い。
「分かりました。そこを退いてください」
言われて場所を空ける。
ただあたしが感じたとおり、これといって罠はなかったらしい。先輩が戸をあけた。
朽ちて傾いたテーブル。ひっくり返って壊れた椅子。外れかけた棚。
――でも。
「やっぱり誰か、手を入れてますよね……」
「ええ」
廃棄されたのはずいぶん前の話だ。それを考えると小屋が無事なほうがおかしいし、中ももっとダメになっていて当然だ。
なのに、手を入れれば使える程度の痛み方だった。つまり少なくともこの小屋が廃棄された時期は、シュマーの施設よりもっと後なわけで……しかも足元の埃がそんなに積もってなかったりと、ずいぶんちぐはぐだ。
ただぱっと見た限り、どこかへ続く通路が在るようには見えない。
ドワルディにもらった地図を広げる。
地下への入り口は幾つかあるけど、港からいちばん近いのがここだ。
先輩の言うことが正しければ――でもタシュア先輩は絶対に嘘は言わない――廃棄されたはずのここは、今も出入りがあるはずだ。そして出入りするのに、いちばん便利なここを、潰すとは思えない。加えて、不自然な廃屋。
こういったことを考え合わせると、この廃屋のどこかに必ず、入り口が隠されているはずだ。
と、先輩が奥のクローゼットへ歩み寄った。
あたしも近寄ってみる。
蝶番のところが痛んでしまったのだろう、片方の戸が外れかけて、開けなくても中が見える。でも中は、これといって何もなかった。
けれど先輩は構わず、壊れていないほうの扉も開けて、中へ手を入れた。
奥の背板が押される。
「こんなところに……」
「このクローゼットの扉だけ手垢がついていたのに、気づかなかったのですか? ずいぶんと注意力散漫ですこと」
ずばりと言われて返せない。
背板は、手を離すと自然と元の位置に戻る仕組みになっていた。確かにこれならば、見つかりづらいだろう。
最初の印象と違って案外考えて偽装してあるな、と思った。
いかにも怪しげな場所を調べてみて何も見つからなければ、そこはたいていは二度と調べない。そういう点からは壊れかけたクローゼットのさらに奥、押さなければ分からない扉というのは、悪くない選択肢だ。