Episode:174
それでも気は晴れない。もう少し何か、もしかしたら、そればっかりが頭の中を巡る。
こんなんじゃいけない、そう分かってもまだ、考えてしまう。
「あんま考えすぎんな。ってもまぁ、まだムリか」
「うん、ごめん……」
だんだん落ち着いてくのかもしれないけど、時間がかかりそうだ。
なんだか寂しくて辛くて、ベルデナードのスラムのときみたいに、イマドに身体を寄せる。
ちょっとびっくりしたみたいだけど、イマドは動かなかった。
――広がる、安心感。
たったこれだけなのに、どうしてこんなにほっとできるんだろう?
イマドに寄りかかったまま、海を眺める。高く上がった日の光が当たって、身体が暖まってくる。
今、生きてるあたし。
こうしてひとつひとつ感じながら生きてったら、グレイシアは喜んでくれるんだろうか?
「……あのな」
「え?」
続けてイマドが何か言おうとしたとき、素っ頓狂な声が響いた。
「ほらー! やっぱりいた!」
ミルの声が響いて、ちょっと嫌な気分になる。せっかく、イマドと2人だったのに……。
「ほんとだ、よく分かったね……って、ミル、ダメじゃん!」
ナティエスの声が続いた。
さらにシーモアの声。
「イマド居るなら、別に探さなくていいんだっての。なに考えてんだい、あんたは」
「えー? ミルちゃんせっかく当てたのにー」
聞いてるだけで頭が痛くなってくる。ミルってば、ほんとになに考えてるんだろう?
「ゴメンね、ルーフェ。ミルが秘密の場所行ったらしいっていうから、てっきり独りで行ったと思って……」
ミルは相変わらず知らん顔だけど、ナティエスが必死な顔で謝ってくれた。
それを見て思う。
あたしは、独りじゃない。
そのとき、ふ……と何かが通り過ぎた。
驚いて辺りを見回す。
「どした?」
「ううん、何でも……」
あたし、イマド、シーモア、ナティエス、ミル。やっぱりその5人しかいない。
でも、確かに感じた。あの気配は、グレイシアだ。
陽炎のように揺れる金髪が、微笑んだ気がした。
きっと思い込みで感傷だと思うけど……今は信じていたい。
「んじゃあたしら、帰るよ。ジャマだろ」
「あ、ううん、その……お昼、みんなで……ダメ?」
あたしの言葉に、みんなが驚いたふうに顔を見合わせた。