Episode:172
そんなあたしを見て、イマドが笑い出した。
「悪りぃ悪りぃ、けど事実だろ」
「そうだけど……」
反論できないのが悔しい。
「で、そのあとどうなったんだ?」
「それが……」
水を向けられて、続きを話し出す。
今度は涙を止められなかった。グレイシアのことを思うと、どうしても泣いてしまう。
「全部お前の複製で、しかもみんな死んでるとか、きっついな……」
さすがのイマドもそんなことを言う。
「それでも、1人だけ……生きてたんだけど……」
何とか水槽の中から助け出したこと。かなり厳しい状態だったこと。でも少し元気になったこと。なのに最期、あっという間に逝ってしまったこと。
言えたのはそこまでだった。あとはもう、言葉が出てこない。
ただただ涙がこぼれる。
どうしてグレイシアは、あんな目に遭わなきゃいけなかったんだろう? あの子の何が悪かったんだろう?
あの時からずっと考えてる。けど、答えは出ない。
そしてたぶん……死ぬまで答えは出ないんだろう。
あたしが落ち着くまで、イマドは何も言わずに傍に居てくれた。それが凄くありがたい。
砂浜に波が寄せては返す。小さな貝のカケラが、ところどころに落ちてる。
――あの子が見たがってた光景。
なのにたったこれだけのことさえ、叶わなかった。
思えば思うほど、気持ちが沈んでく。
「……その辺にしとけよ。そのグレイシアって子、泣くぞ?」
「え?」
意味が分からなくて戸惑う。
「だって、グレイシアは……」
「いやまぁ、確かに死んじまったけど。んでも、お前がそーやってたら、その子が今度泣かねぇか?」
「あ……」
優しかったグレイシア。
もしあの子が今のあたしを見たら、絶対に心配する。そうして最後は、泣き出してしまうだろう。
ただでさえ辛い目に遭ってばかりだったあの子に、そんな思いはさせたくない。
死んでしまったから思うわけが無い、そう言う人も居るだろうけど、あたしはそうは思えなかった。ただの感傷かもしれないけど、きっとどこかに居ると思う。