Episode:17
「何?」
「この廃棄ファクトリーですが……やはり動力炉が動いています」
彼はそれしか言わなかったけど、意味するところは分かった。そんなものが動いているのなら、かなりの人数でここを使っているか、かなり大規模に実験か何かをしているかだ。
――隠れて、何を。
何かとても納得が行かない、自分が置き去りにされたような感覚。けど、間違いじゃないんだろう。
あたしの緊張を他所にひらりと手摺りを飛び越えて、タシュア先輩が埠頭へと飛び降りる。
「沖で停泊してていいわ。丸一日経ったら、迎えに来て」
あたしもそう言うと、先輩の後を追って手摺りを飛び越えた。
足の裏に硬い地面の感触が伝わる。
さっきの地図で大体の場所を把握してるんだろう、先輩がさっさと島の奥へと歩いていく。
あたしも慌てて後に続いた。けど。
「え……これって……」
最初こそ茂みをかき分けたけど、少し行った先で木の枝や下草が取り払われた、綺麗な通り道が現れた。
「ここを使っている誰かの仕業でしょうね」
「ですよね……」
記録の通りなら、ここは長い間放って置かれたはずだ。だったら下草や潅木が好き放題に生い茂って、奥へは進むだけでも大変な状態で当たり前だ。
なのに道が車両が何とか通れそうなほどの広さで、きちんと整備されている。
――嫌な、予感。
予想以上に大掛かりなことが、この地下で行われているのかもしれない。
そのまま道なりに進むと崖に突き当たって、近くに廃屋が建っていた。
「まったく。ずいぶんと分かりやすい偽装ですこと。使っている人間の程度が知れますね」
先輩の言葉に内心頷く。
こんな綺麗な道の横に廃屋なんてあからさますぎて、「調べてください」というようなものだ。敵を引き込むための罠なら合格だけど、隠してるとは言わないだろう。
でもそのおかげで、ここを使ってる人たちの素性が読めてきた。
シュマーなら、こういった偽装のことを知らない人はほとんど居ない。居るとすればまだ子供か、訓練さえ受けることのない人だけだ。
そのうちの、誰なのか。
考えながら小屋に近づいて、慎重に調べる。ドア、壁、窓、地面……。
一通り調べたところで、あたしはタシュア先輩のほうに向き直った。