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Episode:168

 葬送の儀は結局準備に手間取って翌朝、グレイシアが息を引き取ってから4日目になった。

 天井の高い、広い部屋。整然と黒い石碑が並んでる。

 石は全部が墓石で、亡くなったシュマーの人間の名前が全て彫られてたり。まぁ時々一部入れ替えるから、正確に言うと全部じゃないけど……。


 その中央の通路を、あたしとルーフェイアは歩いてた。

 前方、要するにいちばん前の壁際に並ぶのは、他と違って白い墓石。総領家のもの。


 ――同じでいいと思うんだけどねぇ。

 どっちも死ねば一緒なのに、なんだって総領家だけ色を変えたのかしら?

 墓石の前にたどり着いて、ずらりと並ぶ名前に視線をやる。


「……ごめんなさいね」

 一番下には、ただ“グレイシア”とだけ彫られてた。

 そして墓石の前に置かれてた小さな箱を、ルーフェイアが手にする。


 シュマーの葬儀のやり方は、とても簡単。生前に用意しといた遺品を墓碑の前に並べておいて、縁の人が参列して受け取って祈る。ただそれだけ。

 いわゆる「故人とのお別れ」をあまりやらないのは、遺体を回収できないことも多いからって話だった。遠い昔は普通にやってたというけど、どこでどう死んだかよく分からないケースも多いから、だんだんこの形に落ち着いたそう。


 遺体が回収できた場合はこ別に機会を設けて、火葬にして灰を撒く。当然ここで亡くなったグレイシアも、このやり方。

 なんだかんだで灰を撒くほうが先になっちゃって、これは昨日の夕暮れ時に済ませてる。

 だから、今日で最後。


 正直あたしだって、最後だとか言いたくない。ルーフェイアなんてもっとのはず。だけど、いつまでも引っ張ってるわけには行かない。

 それに何となく……グレイシアが嫌がる気がした。


 ルーフェイアに似て優しかったあの子は、たぶん周りが自分のせいで、いつまでも泣いてるのを嫌がるはず。

 だったらさっさと区切りをつけて歩き出したほうが、グレイシアも安心できる。

 ルーフェイアにもそう言って説得した。


 いちばん前、白い墓石の前にたどり着く。

「……ごめんね」

 もう何度言ったか分からない台詞が、また口を突いた。

 ルーフェイアは黙ったまま。きっと辛くて、言葉なんて出てこないでしょうけど。


 誰かが合図したわけでもなく、自然とみんなでシュマー式の礼を取って頭を垂れる。

 ――重苦しい、沈黙。

 子供が亡くなった時はいつもそうだけど、今日は一層。


 ルーフェイアが無言のまま、小さな箱を置いた。

 中には、グレイシアの髪を少しだけ入れてある。何も持たなかったあの子には遺品に出来るようなものが、これしかなかった。





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