Episode:165
「なんて言ったらいいのかしらねー。生まれ方がどうこう言われても、だから?って感じなのよ」
「母さんいい加減すぎ……」
物事を考えないにも程があると思う。
肩をすくめて母さんは続けた。
「だって。そんなこと言われたって、何も変わんないもの」
「それはそうだけど」
個人的には変わってほしいところだけど、母さんじゃ天地がひっくり返っても無いだろう。
「だいいちあいつらの言うとおりなら、ルーフェ、あなた自分で言ってたけど、あなたも異常ってことになるしね。矛盾でしょ」
「うん」
造られたから異常っていうなら、その子供もだと思う。そこが生まれ方だけで急に正常になるっていうのは、やっぱり納得が出来ない。
だいいちその説なら、正常な命を人工的に育てただけで異常ってことになる。もっと極端に言うと、動物の乳で育てただけで異常に育つってことだ。
でも、さすがにそれはヘンだ。
「正常に生まれて育てても、殺人鬼は出ますしね。前提自体が破綻していますよ」
いつの間にかあらかた食べたタシュア先輩が、カップを口に運びながら言う。
「要はあの馬鹿どもが、自分のしたことを肯定したかっただけでしょう」
「だわね」
2人があっさりと結論付けた。
それを見て、あたしも考えるのをやめる。たぶんこれは、考えるだけ無駄だ。
「ま、後ろ見てもしょーがないわ。だいいち人となりなんて、何をどうしたかで決まるものでしょ」
「――うん」
きっと、これが正解なんだろう。グレイシアとあの研究者達を比べたら、グレイシアのほうが間違いなく「正常」に近かった。
もちろん何を「正常」とするかはあるけど、でもあの子が素直じゃないなんて誰も言わないだろう。逆にグレイシアをあんな目に遭わせた研究者達が、まともだなんてどうしても思えない。
だとしたら、「生まれ方」なんて関係ない。
どんなふうに考えてどんな風に生きようとしたか、それだけのはずだ。
息を吐く。つかえてた何かが、すっと少し降りた気がする。
そんなあたしに母さんが言った。
「で、それはいいとして。早く飲まないと冷めるわよ?」
「またそういうことばっかり……」
ホントに何にも気にしない人だ。
けどそれが、今はちょっとだけありがたかった。
「そっちも食べちゃいなさい」
「うん」
このささやかなお茶の時間が終わったら、またいろんなことと向き合わなきゃいけない。けどその前にほんの少し、こうやって落ち着けたのは大きかった。
――これが終わったら、また。
そう思いながら、あたしはサンドイッチを口に運んだ。