Episode:162
「ま、なかなか思う通りには行かないってことだわね」
「そんな単純なことにいまさら気づくとは、今までいったいどこを見てきたのです?」
「さぁ?」
タシュア先輩の突っ込みに、母さんがうそぶく。
「それにしてもあんた、意外と隠し技あるわね。他にないの?」
「知らない……」
急にそんなこと言われても、分かるわけなかった。
「自分のことでしょうに」
先輩からも言われるけど、答えようがない。そのときになってみて、自分でも「こんなことが出来たのか」といつも驚くのだから。
もしかしたらまた何か分かるのかもしれないけど、今のところはこれだけだった。
「まぁしょうがないわ。人間なんてそんなもんでしょ」
「先程は、シュマーは人間ではないと言っていたようですがね」
先輩がまた突っ込む。
「言葉の綾よ」
「そんなもので、次々事実を覆されても困ります」
よく分からないやり取りを聞きながら昇降台に乗り込んで、最初の階へと戻った。
「で、あの連中はどうするの?」
「しばらくは……あのまま。後で回収」
半日くらい放っておいていいかなと思う。
「まったく、どこまで甘いのやら。そうやってあんな連中を、一生養うわけですか」
あたしは答えられなかった。
先輩の言うことは、たぶん間違ってない。でもあそこで餓死させるのは、あたしには出来なかった。
それにこれから死ぬまで病気と付き合うのだから、少しはグレイシアや他の子達の気持ちが分かると思う。
「まぁいいわよその辺は。治療の実験台にもなってもらえるしね」
「なるほど、そういう考え方は成り立ちますかね。それでもコストに見合うとは思えませんが」
続く冷徹な話に、口を挟む気にはなれなかった。自分でも何をどうしたいのかよく分からないし、だいいちそんな気分じゃない。
「……ルーフェイア、あんた大丈夫?」
「平気」
たぶん本当は平気じゃないはずだけど、そう答える。
「そぉ? あんまりそうは見えないけど」
「平気だってば」
母さんが心配してくれてるのは分かるけど、うるさいと思った。放っておいて欲しいのに、どうしてこうやって構うんだろう?
「――まったく。幼児ではないのですから、少し放っておいてはどうなのです。そうやって甘やかすから、いつまで経っても独りで何も出来ない子になるのでしょうに」
「いいじゃない、可愛いんだもの」
人の迷惑なんて考えない母さん、どこまでもマイペースだ。