Episode:161
「これでも……まだ言える?」
スタッフたちからの答えはなかった。辛くてそれどこじゃないんだろう。
あたしは彼らに背を向けて、地下への階段に向かった。
「ぐ、グレイス、様……」
「自分で治療出来るでしょう。研究してたんだから」
振り返らずスタッフたちに言い放つ。
手厚い看護、なんて用意する気はなかった。グレイシアと……他にたくさん殺されていたあの子達の気持ち、少しは思い知ればいいと思う。
ただ、何かを踏み越えてしまったな、とも思った。
今までのあたしは最前線へ放り込まれて、っていう言い訳がまだあったと思う。
けど今のは違う。完全に自分の意思で、自分より弱い(はずだ)相手にあたしは手を出してる。
「ルーフェイア、あなた思ってたより手厳しいわねぇ」
後ろからついてきた母さんに、あたしは言い返した。
「同じ分しか返してない。それにあの子達、みんなあたしの姉妹だもの……」
「確かにね」
母さんはそれ以上言わなかった。もうずっとシュマーのトップに居るから、こういうことは嫌って言うほど見てきてるのかもしれない。
あたしと母さん、それにタシュア先輩の三人で、地下への階段を下りていく。
「――それにしてもあれ、どうやったの?」
昇降台が見えた辺りで、のんびりとした声で母さんが訊いてきた。
「どうって言われても……」
自分でもよく分からない。
シュマーの業病は子供を殺すけど、それだけじゃない。殆どの大人も、戦死じゃなければ同じこの病気で死んでいく。
だからあたしのやったことは、将来起こることを今起こしたに過ぎなかった。
それを説明すると、母さんはちょっとがっかりしたみたいだ。
「何でそんな顔?」
「だって。もしかしたら他の子の治療に使えるんじゃないかと思って」
どっちが年上か分からなくなるようなやり取りだけど、内容は深刻だ。
「どうなの?」
母さんの真剣な表情。逆に言うと、それだけこの病気で苦しむ子が多い、っていうことだ。
けど、その役には立てそうになかった。あたしのやってることはどこまでも、「これから起こってもおかしくないこと」を早めに起こしてるだけだ。
要するに実際に何か治したりは、まったくしてないし出来ない。だから治療なんて、夢のまた夢だった。
あたしの言葉に母さんがほんのちょっとの間だけため息をついて、肩をすくめて言った。