Episode:160
――こんなの、人じゃない。
シュマーの人間で傭兵として生きてたって、子供をこんな風に扱ったりしない。
母さんはたぶん、ずっとこんなのを見てたんだろう。だからこそ、総領なのにシュマーを信じてないんだと思った。
まぁもちろん、こういう連中ばっかりじゃないんだろうけど……。
「シュマーのトップは、そもそもグレイス様です。さぁ」
「――そうね」
いつもの姿に重なって観える、醜く歪んだスタッフたちの想い。
どんな魔物も裸足で逃げ出しそうな、捻じれて崩れたグロテスクな塊。死体のほうがよほどマシなくらいだ。
グレイシアや他の子のことをもう少し何か思ってたなら、救いようもあった。
でもそんなもの、どこにも見当たらない。
観えるのは、自分の願いを叶えたいという思いばっかりだ。それがすべてで、何者にも優先するものだと思ってる。そして母さんもグレイシアも、ただの道具だと思ってる。
――こんな連中に、あんなやり方で。
前線で戦って、っていうほうがまだマシだ。
「あたしが、決められるんだっけ……」
「その通りです!」
スタッフの一人が力説する。
「シュマーはそもそも、グレイス様のものです。トップに立たれるのに何の問題もありません!」
そう言う裏で、彼らが別の言葉を叫ぶ。
自分たちにとってジャマなものを、全部あたしに排除させて。そして好きなことだけしたいと。
もっともっと研究をして、グレイシアのような存在を作り出して、いろいろなことを解明したいと……。
「よく、分かった」
理屈なんて要らなかった。
――許さない。
ただそれだけだ。
意識を自分の裡へ向ける。
周囲の気配を捉えて、引き出した力を向ける。
這い出した力が“彼ら”を捉えて、うめき声があがる。
「……あなた、何したの?」
「別に」
あたしの答えに、母さんが肩をすくめた。
「何もしなかったら、こうはならないでしょ」
「グレイシアと同じにしただけ」
どうやったらそうなるか、細かいことは知らない。ただそう“思う”ことで出来るのだけはわかってた。
立ってられなくなったスタッフたちが、床にはいつくばる。