Episode:16
「いま、接岸中です」
答えはなかった。
先輩が無言で甲板へと歩き出し、あたしも後ろへ続く。
声をかけたいのに言葉が出てこない。
船が波をかき分ける音だけが、いやに大きく聞こえた。
潮風が、あたしの長い髪を舞い上がらせる。
所々崩れた、小さな港。
向こうの建物もやはり廃屋になっている。
どこをどう見ても、昔使われていたただの別荘地が何かの理由で放棄されて、荒れ放題になったようにしか見えない。
でもこれが見かけだけなのは、あたしはよく知っていた。
ファクトリーは殆どがこういった島に建設されていて、どれもきちんと偽装されている。ドール近郊のファクトリーは小さな島を誰かが別荘地に使っているようにしか見えないし、現在のメインファクトリー「END」にいたっては、地上部はまるでただの漁村だ。
シュマーの本拠地であるファクトリーは、かなり昔からユポネ族の技術を輸入して、地下に建設されている。
ここもそうで、たしか地下で幾つもの島が連結され、かなり大規模な造りになっていたはずだ。
ただ幸いにも、最近まで使われていたのはこの中心部の島の地下だけだった。もしかつてのファクトリー全部を捜索するとなったら、はっきり言って1週間あっても足りないだろう。
そのここで、いったい何があったのか……。
やがて船の速度が徐々に落ち、完全に停止した。
「お嬢様、こちらを」
一緒に居たドワルディが、通話石を出す。
「万が一内部で通話妨害がされていても、これならば通じます。お連れ様も」
「……あらぬところへ通話が回されていそうですがね」
そう言いながら、先輩も受け取った。でもこれで、万一のときも連絡だけは取れるだろう。
――要らない気もするけど。
あたしはまだともかく、先輩じゃ何があっても切り抜けそうだ。
「あと、この見取り図を。昨日お渡ししたものより、詳しく描かれております」
「ありがと」
夕べドワルディが「とりあえず」と言って地図をくれたのだけど、今一部ずつ手渡されたものは、比べ物にならないほど詳細だった。きっとあたしが夕べ「もっと詳しいのは?」とうっかり言ったから、慌てて用意してくれたんだろう。
ただ使われてたのがずいぶん前なのを思うと、いろいろ変えられてる可能性はある。鵜呑みには出来ない。
「それからお嬢様」
少し声のトーンを落として、ドワルディが言う。