Episode:159
薄々感じてはいたけど、絶対に居ないでほしい真っ黒な人たち。あたしの前にずらりと並ぶのは、そういう人たちだった。
「研究を続けたら、治るの?」
なのにあたしはどうしてか、自分でもびっくりするくらい“いつもどおり”だった。
スタッフが勢い込んで答える。
「もちろんです。研究が完成した暁には、もう二度と死ぬ子は出ないかと」
「そう……」
全部が嘘ってワケじゃないんだろう。実際今までにも、研究が進んで治せるようになったものはある。
けど、これは違った。
“彼女”がまた何か小細工してるみたいで、言葉の裏の考えが見える。
実験がしたい、結果が見たい。それも出来れば数多く。口ではどう言ってても、スタッフたちが考えてるのはそういうことだった。
“結果を見る”ためにヒドイ目に遭う子がいることは、彼らの考えの中にはない。
「治るとしたら……グレイシアはどうして、放置されてたの?」
「グレイシア? 誰のことですか?」
やっぱりそうだろうと思う反面、ものすごく腹が立った。
こんなヤツのために、グレイシアは……。
炎にでもなりそうなほどの怒りの中、それでもあたしは訊いた。
「覚えてないの? あたしと母さんであの廃棄施設から連れてきた子」
「あぁ、あの実験体ですか」
さらりと、とんでもない答えが返ってくる。
さらに言葉は続いた。
「あれは失敗しましたね。首尾よく発病していたのですからなんとしてでも調べて、役立てるべきでした」
まるで機械か何かみたいな言い方だ。
「まぁ条件はある程度分かりましたから、次からはその条件に沿ってやっていけば、人為的に病児が作れるでしょう。そうなればまた研究が進みます」
次々と出てくる、有り得ない言葉。
しかも心の中で考えているのは……。
「……つまり研究を続けるのに、母さんがジャマ?」
彼らが心の中で思っていたことを言葉にする。
スタッフたちは、言い当てられるなんて思わなかったんだろう。それぞれの顔に初めて、狼狽の色が見えた。
けどそれも一瞬で、むしろ嬉しそうな思考へと変わっていく。
(グレイス様、やっとその気になったか)
(今の総領とやらは、ヘンなところでお堅くて困る)
見えるのは、そんな考えばっかりだ。