Episode:158
「グレイス様、大丈夫ですか?」
いちばん年上のスタッフが声をかけてくる。
――上辺だけの、心配。
その心の内は、あたしの心配なんてひとつもしてなかった。
考えてるのはただただ、この研究が続けられるのか、そのためにはどうすればいいのか、そんなことばっかりだ。
「そんなに……研究、したいの?」
言葉が口を突いて出た。
「グレイス様には理解し難いかもしれませんが、したいですな」
目の前のスタッフが答える。
「研究すれば、子供たちの病も治せるやもしれません」
「病気を……?」
言葉が心に突き刺さった。
シュマーに特有の病気。子供たちを次々と殺していく業病だ。
死んでいった子達の顔が脳裏をよぎる。
そのとき、静かな声が聞こえた。
「グレイシアも、同様に発病していたようですがね」
タシュア先輩の冷静な指摘で、はっと我に返る。
胸のうちに疑問が湧き上がった。
病気を治すのが目的で研究してたなら、グレイシアの放置は有り得ないはずだ。ずっと手元で詳細なデータが取れたわけだし、もっといろんな治療を試さなきゃおかしい。
けど実際には、グレイシアはそれこそ実験結果とでもいう状態で、「生きてるだけ」の状態にされてた。
――やっぱり何かがおかしい。
何を隠してるのか探ろうとスタッフたちに目を向ける。
またあたしの中で嗤い声が聞こえて、スタッフたちの「声」が見えた。
(総領などと言っても、所詮は人造だしな)
(グレイス様は甘い。この方さえ居れば十分)
(現総領さえ居なくなれば、後はどうにでも)
唖然とする。
聞きたくなかった。こんなもの、知らないほうがいい。
グレイシアのことなんて一つも考えてない。それどころか、シュマーのことさえ考えてない。ただただ、自分たちの研究のことばかりだ。
それも、誰かの役に立つからとかじゃない。誰がどんなに苦しんでも構わず、自分たちの好奇心さえ満足すればいいと思ってる。
(まぁ、“人”ならこんなものだろうな)
あたしの中で彼女が嗤った。