Episode:157
何を基準にどう判断していいか分からないまま、それでも必死に考える。
人為的に生み出された、グレイシア。
それと同じだという母さん。
なのにあたしは、まったく別だと彼らは言っていて……。
そのとき偶然、後ろのほうに居たスタッフたちが囁き交わしてるのが目に入った。
何となく唇の動きを読む。
(上手く行くか?)
(グレイス様は、素直だから)
これも意味が分からなかった。素直だと言われたのは嬉しいけど、会話がこの場にそぐわない。だいいち、何が上手く行くんだろう?
「どうかされましたか?」
「え? ううん、その……」
口ごもりながら考えるフリをして、囁きを読み取り続ける。
(グレイス様さえ、押さえれば)
それに返されたのは、軽い頷きだった。
整理してみる。
なんだかよく分からないけど、このスタッフたちはあたしさえ居ればいい、と思ってるらしい。そしてあたしが素直だから、上手く行くと思ってる。ここまでは確かだ。
――だとしたら、何のために。
悩むあたしの“中”で、声が聞こえた。
(知りたいか?)
病院テロのときに、ルアノンが包囲されたときに聞こえた、あの“彼女”の声だ。
そして“彼女”はあたしの答えを待たずに、言った。
(見せてやろう)
瞬間、世界が一変する。
いつもと同じ世界に重なって、人の感情が観えた。
嫉妬、欲、蔑み、怒り、そういったものがどす黒く渦巻いてる。
(何これ……)
問いかけると、“彼女”は可笑しそうに嗤った。
(そなたの身近な者たちが、観ている世界だ)
誰と名指ししたわけじゃないけど、「身近な者」が母さんやイマドを指してると分かる。
まっすぐ見ていられないほど、酷い世界だった。
にこにこしながらあたしに丁寧に接してた人たちが、心の中では反対ことを考えてる。いい人なのは上辺だけで、中ではどう利用してのし上がるかだけを思ってる。
逆に母さんは、中も見かけも同じだった。すごく読みづらいけど、タシュア先輩もそれに近い。
そして、イマドが意外と人を信用しないわけも分かった。こんなのを子供の頃からずっと見てたら、他人なんて絶対に信じられない。