Episode:156
「ご覧に、って……?」
意味が分からなくて聞き返すと、最年長のスタッフが頷いた。
「グレイス様には衝撃とは思いますが、これが『人に造られた者』の実態です。人になり切れない」
説明されてもまだ、あたしは意味が分からなかった。
人になり切れない? でも母さんもタシュア先輩も、確かにちょっと軸が違うとは思うけど、何をどう見たって人だ。
なのに何が、どう違うって言うんだろう?
「何のことか、分からないんだけど……」
「あぁ申し訳ありません、言葉が抽象的過ぎましたな。要するに、異常な精神構造の欠陥品、ということです」
「欠陥、品……?」
母さんも言ってたけど、どこをどう見て欠陥だとか異常だとか言うのか、やっぱり分からなかった。
確かにさっきの母さんやタシュア先輩のやり方は、ちょっと度を越してるかもしれないとは思う。
でも2人とも、無関係な一般人に手を出したりはしない。そういう意味じゃ、グレイシアをあんな目に遭わせたスタッフのほうが、よっぽど異常だ。
それに『造られた』から異常だっていうなら、グレイシアはどうだったんだろう? あの子はあたしの複製だから、だとしたら元になったあたしも同じようにおかしいはずだ。
だいいちあたしは、造られたから異常だっていう母さんから産まれてるわけで……。
何がなんだか、まったく分からない。
「つまりグレイス様、人に造られたものは人ではないのですよ」
当然という顔で別のスタッフが言う。
「やはり、自然に産まれないとダメなのでしょうね」
「なら、あたしもでしょう?」
疑問をあたしはぶつけてみた。
「何故グレイス様が?」
「だって、あたしの母さんは異常でしょう?」
親が人じゃなくて異常だって言うなら、子供だってそうだ。あたしだけ違うなんて逆におかしい。
けど、彼らの答えは違った。
「グレイス様は、人に造られていません。ですから違います」
「でも……」
何かがおかしい。納得がいかない。
さっきから生まれ方が違うからと言ってるけど、あたしとグレイシアは早い話が年の違う双子だ。それが生まれ方のせいで、そんなに違うとは思えない。
何よりあの子は、いい子だった。
母さんと先輩との視線を感じる。2人ともあたしがどうするか、様子を見てるんだろう。