Episode:155
「あら、そんなに嬉しい? じゃぁもう少し派手にいきましょうか?」
返り血を浴びながらの、相変わらずの笑顔。
「あのお嬢さんにあんなに素敵なことをしてくれたんだもの、ちゃんとお礼しなくちゃね♪」
にこにこと楽しそうな様子に、スタッフたちが完全に浮き足立った。我先に逃げようとする。
けど当然ドアは施錠されてて、逃げ道なんかなかった。
「逃がすわけ、ないでしょ?」
楽しげに弾む声。
あたしは動けなかった。
何が正しいのか分からない。グレイシアにことは許せなくて、けど母さんたちのしてることにも賛成出来なくて、かといって何かいい方法を思いつくわけでもなくて……。
「――やはり、人の手による者は人にはならんか」
静かな声が響いた。
言ったのは、スタッフの中で最年長の人だ。
「何が言いたいのかしら?」
「そのままの意味ですな」
平静な声で彼が続ける。
「そこの銀髪の青年もあなたも、人に造られた。そして精神に異常を来たしている」
「意味が分からないわね。あたしたちが異常って根拠はどこ?」
それはいくらなんでも聞く必要がないんじゃないか、そう思ったけどあたしは言わなかった。代わりに事の成り行きをただ見守る。
「十分異常ですな。人は人を殺すのを楽しんだりしませんぞ」
「『実験』と称して子供を虐待するのと、どこが違うのかしらね」
たぶん永遠に平行線の議論が続く。
ただあたしは、違うところでショックだった。
――母さんも、造られた。
タシュア先輩が曰くつきなのは、だいぶ前からあたしは知ってた。最初に出会った頃シュマーに問い合わせたら、そういう調査報告が返ってきたからだ。
けど、母さんまでそうだったなんて思わなかった。
だとすると、その母さんから産まれたあたしはいったい……?
分からない。何が正しくて何が間違ってて何が真実で何が嘘なのか、まったく分からない。
話はまだ続いてた。
「我々は、むやみやたらと人に武器を向けたりはしませんな。ましてや、それを楽しむことなど有り得ない」
「一緒でしょ。名目が違うだけよ」
母さんの言葉に、最年長のスタッフが首を振った。
「グレイス様、ご覧になりましたか?」
いきなり話が振られて、全員が一斉にあたしの方を向く。