表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/175

Episode:154

 さすがにたまらなかったんだろう、集められてたスタッフの1人が、短剣――うちの場合、研究者でも武器を使える人間は多い――を抜いて、タシュア先輩に刃を向ける。


「ほう。屑同士で一人前に庇いあいですか?」

 淡々とした口調で言いながら先輩が動いて、掴んでいたスタッフを盾にした。

 短剣が深々と、焼かれて死に掛けていたスタッフに突き刺さる。


「まったく。この程度も考えつかないとは、研究者という割にはずいぶんと貧相な頭脳ですこと」

 同時にどさりと重い音をたてて焼かれたスタッフが放り出されて、刺さった短剣を握ったままのもうひとりが一緒によろめいた。

 瞬間またタシュア先輩の手が伸びて、2人目のスタッフの顎を掴む。


「同じというのも芸がありませんが、まぁこんなもので芸を追及してもムダでしょうしね」

 炎が吹き上がる。また人が焼かれていく。


 ――一方的な、虐殺。

 呆然と見ているあたしに、銀髪の先輩が視線を向けた。

 その顔浮かぶに、どこまでも冷たい笑み。


 一瞬にして全身が総毛立つ。

 かわいそうだとかひどすぎるとか、あたしのそんな思いを嘲笑うかのような笑み。

 けど……こういう人をあたしは、もう1人知ってる。

 あまりに壮絶な光景に、思わずスタッフが助けを求めて振り返った、その人。


「カ、カレアナ様……」

「あらなぁに?」


 気軽な口調。にこやかな表情。

 碧い瞳に浮かぶのは微笑。

 そのまま母さんは悠然と歩み寄って、スタッフの1人の頤に指をかけて、少し上を向かせた。


「なんのお願い? 言ってごらんなさい」

 甘い声。

 先輩みたいな冷たさはまったくない。子供のちょっとしたわがままを、聞いてあげるようなた雰囲気だ。


「適当な形で、叶えてあげるわよ?」

 艶然とした笑みを浮かべながら、母さんが言う。

 その微笑に危険なものを感じたんだろう、スタッフたちがあとずさった。


 外をよく知らない研究者は別として、現総領カレアナ――つまり母さん――の怖さは、シュマーの人間なら誰でも知ってる。

 戦場で、時にはこんな風に身内の誰かががしでかした暴虐を目の当たりにするたび、この人はこの艶然とした微笑で屍の山を築いた。そう聞いてる。


「た、助け……」

 それを最後まで母さんは言わせなかった。


「ごめんなさいね。あたし、タシュアほど芸がないのよ」

 言いざま片腕を切り飛ばす。

 絶叫が上がったけど、母さんは平然としていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ