Episode:153
それだけじゃなく、ここに居る人全員がそんな感じだ。あたしのことはまだともかく、母さんのことはきっとなんとも思ってない。
それは、人としては正しいと思う。けどシュマーとしては、やっぱり何かおかしかった。
ただ、理由が思い当たらない。シュマーの一員として世話になってる身で、曲がりなりにもトップに立って仕切ってる母さんを、どうして見下せるのか分からなかった。
けど母さんのほうは、何か心当たりがあるみたいだ。戸惑ったような感じはカケラもない。
「まぁ、あなたからしたらそうなんでしょうね」
かなり怒ってるはずなのに、世間話でもしてるような調子で母さんが言う。
「けどね、大事な子供が1人死んだわ」
それに答えたのはさっきとは違う、もう少し若い人だった。
「子供? 被検体でしょう。それも、羊水槽から出すことさえ出来ない」
あまりの言い草に、思わずあたしも動きかける。
けどそれよりも早く、タシュア先輩がすっと動いた。
いつもと同じで足音も立てず、言い放った研究者のの正面に立つ。
「なんだねキミは? だいたい部外者が――」
言葉は途中で途切れた。
この間ファールゾンにやったみたいに、先輩がスタッフの顎をつかんで、無理矢理椅子から立たせてる。
「~♪」
母さんが軽く口笛を吹いた。
――やっぱり、おかしいかも。
前からまともじゃないとは思ってたけど、母さん完全にこの状況面白がってる。
「どうやらご自分がどういうことをしてきたのか、全く理解されていないようですね」
タシュア先輩の声は、寒気がするほど冷たかった。
「絶えること無き地獄の業火よ――」
先輩の口から、魔法の韻がこぼれる。そして広がる、肉が焦げるあのイヤなにおい……。
顎をつかまれたスタッフに、青白い炎がまとわりついていた。
消しとめることの出来ない魔法の炎が、身体を焼く。
「いかがですか? 生きながらその身を焼かれる気分は」
返事はない。だいいち顎をつかまれてるから、答えられるわけがない。必死、としか言いようのない顔で暴れてるけど、ただそれだけだ。
皮膚が焼けて鮮やかな色の筋肉がのぞいて、けどそれも、炎にあぶられてすぐに色を変えた。
目の前で、声も上げられずに人が焼かれていく。
さすがに止めようと動こうとして――それより早く、先輩が口を開いた。
「人の命をもてあそぶということが、少しは理解できましたかね? まぁ、熱さと痛みで、それどころではないでしょうが」
いつもと何も変わらない、ごく普通の口調。
血が飛び散るわけでもないし、魔法が派手に発動するわけでもない。だからこそ不気味だ。