Episode:152
「あら、足元危ないわね。気をつけて」
「言う暇があるのでしたwら、片付けておいてください」
なんだかよく分からないやり取りが、相変わらず続く。
ただ母さんは警戒する様子も無くて、無造作にドアを開けて部屋を出た。
続く、ゆるい登り階段。
「やれやれ……ムダに距離がありますこと」
「しょうがないでしょ、うち広いんだから」
ため息をつきながらついていくと、階段が終わって部屋に出た。研究者たちが何人か、不安そうに立ってる。
「あーら良かった、勢ぞろいね」
母さんがまるで近所の子供でも見つけたみたいな言い方で、集まってきてた人たちみたいに声をかけた。
「集まってるも何も、集めたのはカレアナ殿、そちらでしょう」
いちばん年をとった、白衣の人が言う。
けど、その言葉には違和感があった。いわゆるシュマーは、母さんない手にこんな言い方はしない。
集められた人たちの顔を見てみる。
年齢は、いろいろだった。でもあんまり若い人はいない。さっき答えた人はそれこそ「おじいさん」だし、他の人もかなり年はとってそうだ。
そしていちばん違うのは、その目つきだった。説明しろって言われると困るのだけど、こんな視線は初めてだ。
なんていうか……“モノ扱い”、それがいちばん近い。グレイスのあたしや総領の母さんを目の前にしても、ぜんぜん興味がなくてまともに相手する気にもならない、そんなふうに思ってる感じだ。
――だから、グレイシアを。
こういう人たちなら、グレイシアのことなんてどうでもいいんだろう。
母さんはしばらく部屋を見回した後、別に怒るふうでもなくて言った。
「そういう言い方ってことは、用件は聞いてそうね」
「一方的に連れ戻した挙句こんなところへ押し込めるのが用件というなら、そうでしょうな」
やり取りは、一触即発の感じだ。
同時に、やっぱりおかしいと思った。この人は、母さんのことをなんとも思ってない。
もちろんタシュア先輩みたいな、普通の人は別だ。元々関係ないのに母さんやあたしの言うことをなんでも聞いたら、そのほうが絶対におかしい。
でも、今目の前に居る人は違う。れっきとしたシュマーなのに、シュマーとしての反応をしない。
血が薄いとこういうことも起こるけど……実際にはほとんど目にしない。大抵の人が詳しく知らなくても王様に頭を下げるのに似てて、総領家にはみんな一応それなりの対応をする。
なのにこの人には、そういう感じが無かった。