Episode:150
◇Rufeir
「捕虜」が連行された、と知らせが来た。
もっともこの場合、いわゆる捕虜じゃないだろう。どう考えたって、あの研究施設で馬鹿なことをしてた、研究者たちのはずだ。
「そゆわけだけど、どする?」
「何がそういうわけで何をどうするのか、まったく意味が分かりませんが? 先ほどの話はもうお忘れのようですね」
「……さっきの話ってなんだっけ?」
母さんとのやり取りがまた始まって、タシュア先輩が気の毒になってくる。
「人類の言葉で言って頂かなければ通じない、という話です」
「んー、ちゃんと話が成り立ってると思うけど」
絶対に違うと思うけど、母さんだけは自信満々だ。
「そう思っているのは貴方だけでしょうね」
「あらそ」
タシュア先輩に事実を指摘されても、まったく堪えないし……。
そして性懲りも無く母さんは訊いた。
「で、どうする? あたしこれから、あいつらとっちめに行くけど」
「……すぐ、が今すぐでしたら」
先輩の答えに、あれ?と思う。帰る帰ると言ってたから帰ると思ってたのに、ちょっと違うみたいだ。
「だったら行きましょ。ルーフェイア、あなたも来なさいね」
「……うん」
母さんに言われてうなずく。
でも内心は怖かった。絶対に先輩も母さんもあいつらを許すわけはなくて……そのときあたしは、どうしたらいいんだろう?
そんなことに構わず、母さんが歩き出す。
「どちらへ?」
「地上。地下じゃ暴れて何か壊れても困るし」
答えにやっぱり、と思った。
どう考えたって、これはやる気だ。しかも母さん、全面衝突になっても構わないと思ってる。タシュア先輩のほうもわざわざ来るくらいだから、容赦する気なんてないだろう。
タシュア先輩と母さん、この2人が本気になったらどうなるのか、あたしには想像もつかなかった。わかるのは、“捕虜”がタダじゃ済まないってことくらいだ。
母さんは、迷い無く地上へ続く道を歩いていく。
その後ろを歩く先輩も、毅然としてる。
でもあたしは、まだ迷ってた。
――何が、出来るんだろう?
そのことばかりが頭の中を回る。