Episode:15
◇Rufeir
遠慮がちなノックの音で、あたしは目を覚ました。
「……なに?」
扉の向こうに声をかける。
「その……グレイス様、目的地へ到着しました。まだ接岸はしていませんが、ご覧になりますか?」
「すぐ行くわ」
いつ起こされてもいいように戦闘服のまま眠ってしまったから、身支度は殆どない。髪だけヘアバンドで手早く止めると、あたしはすぐに外へ出た。
もう辺りは明るくなり始めている。
「どこ?」
「こちらではありません。左舷前方です」
ドワルディに先導されながら、甲板を移動する。
空気が冷たかった。
「あれが……」
差しはじめた朝日の中に、エルニ群島が浮かび上がっていた。
かつて本拠地として使用されていた頃は、エルニ群島全体が訓練等に使われていたそうだ。けど100年の歳月は、その痕跡を完全に覆い隠してる。
廃棄されたファクトリーがあるのは、この中心部近くにある小さめの島だった。
朝もやを通して、荒れ果てた港がかすかに見える。
「接岸、できそう?」
「はい」
「じゃぁお願い」
あたしの言葉が船長に伝えられて、再び船が動き出す。
――いよいよ、来た。
早く上陸したい反面、このまま船に留まっていたい気もしていた。
たぶん、怖いんだろう。この先にあるものが。
けどここまで来て引き返すわけにはいかない。それ以前に、そのまま放っておくわけにいかない。
あたしはタシュア先輩を呼びに、客室へと向かった。
ここまで来る間先輩は、用がない限り部屋から出ようとはしなかった。時折廊下ですれ違っても、いつも無言だった。
部屋の前で立ち止まり、気持ちを落ちつける。
呼びに来ただけなのに、ひどく緊張してる自分。
手を上げて、ノックしかける――と、さきにドアが開いた。
「着きましたか」
「はい」
すでに先輩は身支度を終えていた。接岸したらすぐ、廃棄ファクトリーの中へと入るつもりなんだろう。