Episode:148
「あなたご自身にだけ通じても、意味が無いのですがね」
「他の人にも通じるわよ?」
カレアナとの会話はいつもながら、まったく持って埒が明かない。
だが呆れてもう帰ろうかというタシュアの前で、カレアナが面白そうに笑った。
「もうちゃんと捕獲してあるのよ。もうすぐ連中が着くって、連絡があったわ」
「いたずらに情報を混乱させるなど、組織のトップの行動とは思えませんね」
この傍若無人ぶりに、どこまで付き合えばいいのだろうか?
「……確か船は、今日発てると聞きましたが」
これ以上付き合う気にならず、切り出す。さすがに帰る船に乗ってしまえば、顔を見ずに済むだろう。
「もう出られるのでしょうね?」
「出られるわよ。でもその前にあの連中、とっちめるってのはどぉ?」
まるで小娘のような悪戯っぽい顔でカレアナが言う。
「興味がないとは言いませんが、そのためにもう一泊するつもりもありません」
「だから『もうすぐ』って言ったじゃない」
「具体的な数字で言ってください。もうすぐと言って数日後ではかないません」
タシュアがそう言ったところでドアがノックされた。
「開いてるわよ~」
緊張感の欠片もない声でカレアナが言うと、そっとドアが開けられる。
ドアの向こうに居たのは、タシュアよりは年上だがまだ若い青年だった。
曲がりなりにも総領のカレアナと、グレイスであるルーフェイアの前だからだろう、緊張しきって直立不動になっている。
(こんなものを崇めてどうするのやら……)
確かに2人とも見た目は悪くないが、実像を知ったら何とやらだ。
――シュマーの人間には関係ないのかもしれないが。
あの地下施設でもここでも、部外者のタシュアが入り込んでいることに何も言わないのだ。先日それは「本能」だと言っていたが、神か何かと勘違いしているのではないだろうか?
それを言っていたカレアナ自身は、硬直している青年ににこやかに話しかけた。
「何の知らせ?」
だがその言葉さえも、青年は聞こえていないようだ。ただひたすらに硬直している。
これではシュマーの面々は、総領家にまともな意見を言えるとは思えなかった。
(まぁ私が気にする必要もありませんか)
成り行きでこんなところまで来てしまっただけで、出来ることなら関わりたくもない連中だ。
「そんなに固まらなくていいわよ。伝言あるんでしょ?」
「は、はい。その、『捕虜』が連行されたそうです」
「分かったわ、ありがと」
カレアナの華やかな笑みに、また青年が硬直する。